その22 実力行使!


 最悪だ。


 僕の脳裏にそんな言葉がよぎる。


 だが、理由は分からないけど今の狙いは僕らしい。エコール達が居ないから力を使える……けど、とりあえずあいつらを追い払わないとね。


 「君達、さっき試験官聞いたけどこいつはイレギュラーだそうだよ! 逃げろって勧告があった、だから入り口まで逃げてくれ!」


 するとザハックは剣を抜き、ウッドゴーレムに向かって走りながら叫んできた!


 「なぁにぃ? ……そうか! お前、手柄を独り占めする気だな! 構うことはねぇ、行くぞお前等!」


 「へい!」

 「ひゃっはぁ!」


 「あ、馬鹿!?」


 確かにこいつは僕狙いだけど、さっきのグランさんを見る限り、自分を攻撃する相手には反撃を辞さないようにできていると思う。


 となると、あいつらは……!



 「「「ぎゃあああああ!?」」」


 ブオン! と、腕を振るっただけであっという間に吹き飛ばされ木にぶつかった。あの当たりはまずいか!


 「きゅう……」


 「ふへ……」


 「ひゃひゃ……」


 と、思ったものの、変な声をあげて三人は気絶した。ギャグキャラは頑丈だ。僕はぐっと拳を握り、ウッドゴーレムに感謝する。これで人目を気にせず戦うことができる!


 「こっちだ!」


 ズシン! ズシン!


 セブン・デイズを抜いて、向かってくるゴーレムに斬りかかる。ゴッ! と、重そうな拳をギリギリまでひきつけて躱し、何度か斬る。あれ? セブン・デイズの色が茶色い? 気になったけど、考えている間もなくウッドゴーレムの苛烈な一撃が飛んでくる!


 カカカカ! ブン!


 「うおっと!? ならこれならどうだ!」


 ガキン!


 「硬いなあ! なら魔法で! <インフェルノブラスト>!」


 僕の魔法で、ウッドゴーレムに業火が走って一気に燃え広がる。ウッドゴーレムなら火で十分だろうと思っての判断だ。やれやれ、一体誰が――


 シュ……! ボグン!

 

 「なんだって!? まだ動けるのか!? ……ぐっ!」


 インフェルノブラストで燃えながらもウッドゴーレムは殴りかかってきた。油断した僕はとっさにセブン・デイズを盾にしてガードしたけど体中が悲鳴を上げていた。


 ドサ……ゴロゴロゴロ……


 「がはっ!? うぐぐ……<ダークヒール>」


 回復魔法で傷を癒し、急いで立ち上がって構える。


 ウッドゴーレムも尚、攻撃の手をゆるめるつもりはないらしい。だけど、その拳は燃え落ちてしまう。


 オォォォォ……


 「……見えた、あれだな!」


 ゴーレムには核となる魔石が必ず存在する。壊せば完全に停止するけど、基本的に内部に埋め込まれていて手出しはしにくい仕様にするのは至極当然。しかし、すでに燃え盛るウッドゴーレムの剥がれ落ちていく体を見て、ゴーレムの股間に光るものを発見したのだ。


 オオオオ!


 僕が弱点を見つけたことを把握したのか、接近する僕にウッドゴーレムは慌てて蹴りを繰り出してくる。


 「甘いよ」


 その足に飛び乗り、そのまま股間目がけてジャンプ!


 オォォォ


 叩き落とそうと手を伸ばすウッドゴーレム! 遅い!


 シャキン!


 いつの間にか茶色の刀身になっていたセブン・デイズで魔石を斬ると、するりと真っ二つになり、僕の股間もヒュッとしてしまう。そしてウッドゴーレムの双眸から光が消え、内またになった膝から崩れ落ちた。


 「ごめんよ、恨むなら股間に魔石を埋め込んだ製作者を恨んでくれ……」


 ガサッ……


 割とどうでもいいことを呟きながら燃えていくウッドゴーレムを見ていると、背後で草を踏む音が聞こえた。


 「誰!」


 「……」


 スッと大木の陰に隠れたのは恐らく人影……僕は大木まで一気に近づくが――


 「いない……? 隠れる場所はあるけど、僕のアクセラレータより素早く動けるなんてことは……」


 だけど気配も無く、少し周辺を探したが見当たらず、まさに煙のように消えてしまっていた。怪しさ大爆発だったので捕まえておきたかったんだけど。


 「おおーい! そこ誰かいるか! ……うお、ゴーレムが燃え尽きている!? それにこいつら受験者か? おい、しっかりしろ」


 あの声はグランさんだ。どうやら追いついて来たらしく、ウッドゴーレムのところまで戻ると三人組を揺り起こそうとしているのを発見した。向こうも僕に気づいたらしく、ザハックの体を起こすのをやめて立ち上がる。


 ゴツッ!


 「いてえ!?」


 「お前は確かレオスだったか? さっきも会ったな。これはどういう状況だ?」


 あ、やば、のこのこ出てきちゃったけど説明しないといけないのか!? えーと……えーと……


 「……追いかけられていたんですけど、ウッドゴーレムがこけた瞬間、股間にあった魔石があそこの大岩に当たって砕けたんです。そこにこの火の魔石を股間に叩きつけたら燃えました」


 「ほう、それは不幸中の幸いだったな。運がいい……ってそんなわけあるか!?」


 「嘘じゃありませんよ? なんせ僕の能力ではとてもとても無理ですからね」


 「じーっ……」


 さっ……


 訝しいと言わんばかりの目で見てくるグランさんから目を逸らし、僕はザハック達三人組に近寄ってカバンからポーションをぶっかける。


 「ぶはあ!? な、何だ!? ……そうだ、あのデカブツ!」

 

 「もう終わったよ」


 「な、なに……お前が倒したのか……!?」


 「いや、自滅したんだよ。僕じゃ倒せないって」


 僕がザハックを立たせていると、横にいたサブイチが口を開く。


 「お、俺は見ましたぜ、こいつがゴーレムの股間をまっ――」


 「(それ以上言ったら君の股間も同じ目に合うよ……)」


 「――まっするしてた!」


 それでいい。余計なことをいうと頭をぱーにしてやるからね? 意味の分からないことを言うモブイチを訝しみながらザハックが試験官へ尋ねる。


 「何だよまっするって……で、試験官さんよう、俺達はどうなるんだ?」


 「とりあえず森から出るぞ、話はそれからだ」


 「――ス! レオスー!」


 グランさんがそう言うと、遠くからリラの声が聞こえてきた。ヒューリさん達を連れて戻ってきてくれたらしい。


 「おーい!」


 先ほどの倒れた大木を乗り越えて、僕が手を振ると、リラやエコール、セラが駆け寄ってきた。その後ろにはヒューリさんとあのお婆さんがいた。今は若くなってるけど。大木を迂回して僕達がいる場所へと集まってきた。


 「やっぱり無事だったよ」


 「でしょうね」


 「ちょっとは心配して欲しいな!?」

 

 「よ、良かったです……」


 とりあえずセラが心配してくれたので溜飲を下げていると、ヒューリさんがグランさんと話をし、お婆さんがウッドゴーレムの焼け跡を確認していた。


 「――なるほど、分かった。一旦試験はここで終了でいい、まだ森に残っているやつらもいたら回収だ」


 どうやら正午まで待たなくても良くなったみたいだ。このまま試験が無効なしになったら嫌だなあ。

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