その20 凄腕スタッフさん



 ほーほー……


 チチチチ……


 

 ――すっかり夜も更けた。あの後、僕とセラも交代で仮眠を取るとすっかり元気になった。なったのだが、


 うぉふわん!


 わおーん!


 ガルルル……!


 「ブラウンウルフは群れて攻撃してくる、背中を見せないよう戦え!」


 狼の群れが襲って来たり、


 「かったーい……!」


 「あわわ……≪ヒーリング≫!」


 「ヘビーボアは首の付け根がいいみたいだよ」


 でかい猪が襲って来たりと中々大変だった。


 時間が遅くなってから試験官がけしかけているのか分からないけど、遠くの方から悲鳴らしき音や爆発音が聞こえてくる。時間はそろそろ午前二時というところだろう。


 「はあ……はあ……ま、魔力がそろそろ危ないです……」


 「セラは無理しないでいいわよ。かすり傷でも使っちゃうんだから」


 「だね……次に魔物が出てきても戦わなくていいからね?」

 

 「い、いえ、皆さんと一緒だと……はあ……はあ……参考に、なるので。私は今回こそ受からないと……」


 「ダメだよ、体を壊したら意味が無い。それにこの試験で終わりとも限らないし」


 僕がやんわりと注意すると、セラはがっくりと項垂れて小さく「はい……」と答えた。やれやれ、何があるのか知らないけど、無理して冒険者にならなくても医療施設で働いてもいいと思うんだけどさ。


 セラを休ませるとすぐに寝息を立てはじめてくれたので、とりあえずは一安心。エコールとリラと僕で警戒を続け、さらに時間が立つと森が騒いでいるような気がした。


 ガサガサ……


 「……!」


 「今の音は……!」


 ガサガサ……


 三人で外の様子を伺うため出るが、そこには野ウサギが僕達に驚いて逃げていくところだった。……妙だな?


 「気のせいか? 疲れで気が昂っているのかもしれないな……交代で休むか」


 「賛成ー! 中途半端に寝ると疲れが取れないんだよねー」


 「うーん、この時間に野ウサギが起きているってことあるかな?」


 「森に人が多いから、驚いてウロウロしているんじゃない? 野ウサギのシチュー美味しいんだよね……じゅるり……」


 やっぱり気のせいかと振り向いた時、一瞬シートが揺れた気がした。


 「まさか……!?」


 「どうしたのレオスー!」


 嫌な予感がしてくぼみに戻ると、セラが覆面の怪しいヤツに攫われようとしていたところに出くわした。気配が全然なかったぞ!?


 「……気付いたか、だがもう遅い」


 スッと覆面がバックステップするととんでもない距離を取られた。即座にエコールとリラに大声で叫ぶ。


 「変な奴がセラを連れて行こうとしているよ! 追いかけてくれ!」


 「あいつか!」


 「任せて、足には自信があるわよ!」


 気配の無さ、スピード、セラを軽々と持ち上げる力強さ……恐らく彼はギルドの試験場で動いていたスタッフに違いない!


 「待て! って、ええ!?」


 僕達が追い始めると、あちこちから冒険者達がどこからともなく現れ、何かを追いかけていた。……どうやら同じ状況らしく、木の上や草むらに覆面をしたスタッフさんが必ず誰か一人を担いで僕達が入ってきた森の入り口に向かっていた。


 「うおお待ちやがれええ!」


 「くそ、はえぇ!?」


 「そうか、読めたぞ! セラをこのまま放置しておくと、魔方陣の外に放り出されて失格ってことに違いない。一応親切心で入り口まで走っているようだけど……」


 「そういうことか!? まずいぞ、あの覆面森の中なのに速度が落ちない……!」


 「先行するわ!」


 シーフのリラは自慢するほどのことはあるくらい足が速かった。だけど、僕はそれだけでは不十分だと声をあげる。


 「リラ! 突っかからないで! 足止めだけでいいから!」


 「悠長なこと言ってられないでしょう? ええい!」


 「ふ、若いな」


 リラが覆面に並び、体当たりを仕掛けるが、それを見越してふわりと回避する覆面。バランスを崩したリラが失速する。


 「おおっとっと!?」


 それをエコールが引っ張り、再び走り始める僕達。


 「言わんこっちゃない。三人でかからないとアレはベテランだよ」


 「ごめんなさい……」


 「いいよ、セラを助けようとしてくれたんだもんね。うーん、このままだとセラが失格なるか……仕方ない、奥の手でいこう」


 「そんなのがあるのか?」


 エコールが走りながら僕に尋ねてくるけど、答える前に僕は行動を終えていた。


 「<アクセラレーター>」


 ヒュン……!


 「え? あれ!?」



 「何!?」


 僕は前の世界の魔法を使い、一気に加速する。魔法で足元をとも思ったけど、こっちの方が目立たないし、誤魔化しようもあると踏んでのことだ。即座に覆面の前に回り込むと、覆面の目がぎょっと驚いていた。そこへ畳みかけるようにセブン・デイズを鞘のままで突進する。


 「やああ!」


 「くっ……!?」


 怯んだ、今だ! 


 セブン・デイズを下に向けて、足元から転ばす様に突き立て、僕は手を離し体当たりを仕掛ける。


 「ぐあ!?」


 覆面は方向を変えれずに僕の体当たりをもろに食らうと、セラを取り落としたので空中でお姫様抱っこで受け止め、フラフラした覆面を背中から蹴ってやり剣に躓いて転ばせた。


 「よし、まだやるかな?」


 「フッ、奪い返された時点で一旦は終了だ。だが、終わった訳ではないぞ? 試験は明日の正午まで。忘れるな?」


 そういうと、フッと姿が掻き消え、エコールとリラ、そして他の冒険者の怒号や泣き声だけになる。


 「はあ……と、取り返したのか?」


 「何とかね。でもここからが本番みたいだ」


 「それよりさっきのは何だったの? レオスは魔法が使えないって――」


 「そんなことよりここからが本番なんだよ! さあ荷物も心配だし、戻ろう!」


 「え、う、うん」


 僕が強引に話を逸らし、セブン・デイズを回収すると、スタスタと歩いていく。すると、二人が追いかけてくる気配があった。


 ふう、咄嗟だったけど誤魔化せて良かった……!



 ◆ ◇ ◆



 ――レオスの後ろを付いていくエコールとリラ。



 「レオス……なんて怪しいのかしら……」


 「ああ、あの覆面なんて目じゃないな……」


 全然誤魔化せていなかった。


 

 それでもレオスのおかげで野営は合格しそうだし、人間一つや二つ隠しごとくらいあるとお互い言い聞かせて不問にし、試験に戻っていくのだった。


 そして夜が明け始めたころ――



 ズズズ……

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