その14 楽しい試験の始まり始まり

 「というわけで始まったわよ! 野郎どもに坊ちゃん嬢ちゃん! 待ちに待った冒険者試験よ! 初参加の人も再試験の人も楽しんでいってね!」


 おおおおお……!


 と、ミューレさんがギルド裏にある広場(訓練場?)で、壇上から演説を繰り広げると、ざっと100人くらいの試験を受ける人々から大きな歓声が上がった。楽しむものじゃないだろうとツッコミたいのを我慢して話を聞く。


 「初めての人がいると思うからルールの説明をするわね。まずあなた達には100ポイントというポイントを与えます」


 そう言うと、ギルド職員さんが僕たち一人一人にカードを手渡してきた。ふむふむ……名前と確かに100ポイントがあるな。


 「このポイントがあなた方の持ち点です。これが0になった時点で失格となります。また、全ての試験が終わり、このポイントが一定以上無ければ試験を全てこなしてもギルド証はお渡しできません」


 なるほど、減点制なのかな? いや違うな……


 「すみません、いいですか?」


 「はい、そこの金髪の子!」


 ミューレさんが指示棒を僕に向けると、どこからか声があがる。


 「あ、レオスだ! やっぱり来たんだ!」


 「水臭いやつだぜ」


 エコールとリラだった。とりあえず後で話しに行くとして今は質問をしよう。


 「一定以上必要ということはポイントは増減するってことでいいですか?」


 「いい質問ね。そう、ポイントは増減します! 一応、いくつか試験項目があって、それを全て受けてもらいますが、中には剣技などの試験や魔法の試験もあります。剣が不得意な魔法使いも居るでしょうし、魔法が使えない剣士も勿論いると思います。その辺の平均値を割り出すため、増減制を取っております! だから魔法が使える剣士はポイントが高くなったりします」


 そこで横に立っていたギルドマスターのヒューイさんが口を開く。


 「剣も魔法も両立するというのは実に難しい。だが、それができるということは評価に値するということだな。大魔王が倒されたとはいえ、魔物の脅威が去った訳ではない。力があれば死ぬリスクも低くなるし、仲間を守ることも出来る。それゆえのポイント制だと思ってくれ! あの勇者アレンも両方使えたんだ、同じ人間。できないことはなぁい!」


 うおおおおお!


 それっぽいことを言ってまた歓声が上がる。確かにアレンは両方使えたけど、魔法はそれなりだったんだよなあ……まあ、夢を壊すのもアレだから言わないけどさ。


 「コホン。ギルドマスターのありがたいお言葉を頂いたことですし、そろそろ試験に移りましょうか。あ、最後になりますが不正や他の参加者に嫌がらせなどを行った方は即・失・格! 熟練冒険者からのおしおきが待っています!」


 「へっへっへ……」


 「くくく……」


 「今回は何人残るかのう」


 壁際にずらりと並んだ歴戦っぽい冒険者達がにやにやとこちらを見て呟いていた。強そうだけど、それでもアホのアレンや聖職には敵わないんだよね。それでもなかなかの威圧感があるので、新米冒険者諸君は冷や汗をかきながら震えていた。


 「さ、それじゃ早速最初の試験よ!」


 ミューレさんの声でぞろぞろと移動を始め、僕も歩き出す。そこへリラとエコールが寄ってきて話しかけてきた。


 「もう! 来るなら一緒で良かったじゃない、どうして試験を受けないとか言ったのよ」


 「あはは、あの時は本当に受ける気が無かったんだけどね……」


 チラリとヒューリさんを見るとニカッと笑ってから手を振ってきた。愛想笑いをしていると、エコールが口を開く。


 「オレとしても助かる。聞いたところによると、毎回パーティでの試験があるらしいから知った顔が多い方が有利だろうしな」


 「そうなんだ? それはいいかもしれないね。一応、ギルド証があった方が家に帰るまで稼げそうだから受けることにしたよ」


 三人一組まで聞いてるけどね……それは言わずにそれっぽい理由をつけて第一の会場へと向かう。最初は……魔法の試験か。


 「得意な魔法を的に撃ちこむのじゃ、魔法を使えない者はとりあえず試すだけでええぞ」


 先ほど威圧していたお爺さん魔法使いが杖を的に差しながら説明してくれていた。早速ポイントの上限が始まっているようだ。


 「≪ファイア≫!」


 ボウ!


 「ふふんまだまだね! ≪エクスプロード≫!」


 ドゴォォォン!


 初級魔法で通過する者もいれば実力を見せつけようと、上級魔法でTueeeしたい人などそれぞれだ。魔法使いは概ね通過し、首から下げたカードを見て笑顔だった。


 それに引き替え――


 「うおおお! ≪ファイア≫!」


 ぽふん


 「≪ウォータ≫ァァァァァァ!」


 ちょろ……


 「ほっほっほ、剣ばかりでなく魔力も鍛えねばのう」


 「くうう……」


 剣や槍、斧を使う人達は魔法を習得していないため魔法を唱えるも煙が出たり、少しだけ水が出たりと散々な結果だった。もちろんエコールとリラも――



 「あーん、魔法なんて使えないよー≪ファイア≫!」


 ぽっ……


 「お、火が出たのう。ほっほ、修行を積めばそこそこ使えるようになるかものう。じゃ次」


 「エコール頑張ってね」


 「ああ、任せておけ」


 ニヤリと笑うエコール。自信があるのか、的の前でスッと手を出して構えたその姿は中々サマになっている。そしてエコールが叫ぶ!


 「≪ファイア≫!」


 ぷすん……


 「ほい、終わりじゃ。残念じゃのう」


 まあこんなもんだよね……爺さんに追い払われてエコールが呻いていた。


 「……く、オレは剣士だからいいんだ……!」


 「負け惜しみにしか聞こえないからやめなよ」


 「負け惜しみじゃないっぺや!?」


 エコールは大股で終了した人が集まる方へ歩いていく。お、次はザハックだ。自信満々で的の前に立つ。え? 意外と魔法使えたりするの?


 「ふふふ……見せてやるぜ! 俺の魔法を! ≪ファイア≫ぁぁぁぁぁぁ!」


 ぼひゅ……


 気合いの割にエコールと変わらない煙が出て周りから苦笑されていた。


 「チッ、今日は調子が悪いぜ」


 「ほっほっほ、二回目なのに残念じゃのう。次じゃ次」


 しっしとやはり追い払われていると、ザハックの取り巻きの一人が前に立った。名前が分からないので取り巻きAとしておこう。この人もバリバリの前衛系の風貌をしている。筋肉隆々とまではいかないけど、10人中10人が前衛職だと答えると思う。



 「それ急げ急げ、後がつかえておるからの」


 爺さんにせっつかれて取り巻きAがサッと両手を的へ向けて口を開く。


 「へっへ、分かってますよっと≪ファイア≫!」


 ボウン!


 「おお!?」


 「度肝をぬいてやりましたぜ!」


 「流石は俺の側近だ! はっはっは!」


 僕はつい驚いて声をあげた! いや、どう考えても風貌から魔法を使うように見えないからね! 満足げに取り巻きAがザハックのところへ行き、続いて取り巻きBが歩いてくる。こいつも自信ありそうな顔だけど、まさか――!


 ひゅぉぉぉ……


 一陣の風が吹き、取り巻きBが目を瞑る……そして!



 「ひゃひゃぁ! ≪ファイア≫!」


 ぷすん……


 「ですよねー」


 奇跡は二度起こらなかった。見た目通り、頭は弱い感じだったようだ。気合いが凄かったので周りの人も固唾を飲んで見守っていたが、拍子抜けと言う感じでポカーンとしていた。これは取り巻きAも悪いよね。


 「度肝を抜いてやりましたよザハックさん!」


 「あ、うん。そ、そうだな」


 ザハックの反応も微妙だなあと思っていると、爺さんから尻を突かれて急かされた。


 「ほれ。次は坊主じゃ、やってみせい」


 「は、はい」


 さて、どうしようかな。適当に魔法を使ってもそれなりの魔法が発動してしまう……なら――

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