その11 じわじわくる……

 「いたた……どうして僕が……」


 「何だおっさん! いてえじゃねぇか!」


 ザハックが頭を殴ってきた男にすごい剣幕で食って掛かる。だが、男はどこ吹く風でこう答えた。


 「貴様等があんまりうるさいからついな。さて、何をいがみ合ってたんだ?」


 「別に僕たちにいがみ合うつもりはありませんでしたけど、そこのザナックって人がつっかかってきたんですよ」


 「ザハックだ! 間違えてんじゃねぇ。ただ、俺はそこの二人の知り合いでな? 冒険者になってもすぐおっ死んじまう前にやめとけよって忠告してたんだ。なあ?」


 取り巻きに顔を向けると、二人がやいやいとののしり始めてきた。


 「そうだ! エコールに冒険者が出来るわけがねぇ」


 「ちょっと魔物を退治してたくらいでいい気になるなげひゃ」


 すると男は顎に手をあてて、ふむ、と一声あげたあと考え始め、すぐに僕たちに向かって言う。


 「貴様等は冒険者試験を受けに来たんだったな。なら、実力で決めればいいじゃないか。試験は三日後で、様々な内容があり、ポイント制になっている。多くポイントが取れたヤツが一番……それでケリをつけたらどうだ?」


 「どうせ俺様が勝つんだ、そんなの意味ないぜ」


 ザハックが鼻を鳴らすと、エコールも前に出て男へ向かって話しかける。


 「あの、お気持ちはありがたいですが、オレ達の問題なので大丈夫です。それにオレも負けるつもりはありません。こんなところで剣を抜いて騒ぎにしたくないだけです」


 「ほう」


 「んだとてめぇ!」


 「勝手に吠えてろ!」


 「もう、みっともないからやめてよ……」


 リラがおろおろしながら止めようとするが、二人の睨みあいは続く。そこへまた男が口を開いた。


 「やっぱり元気がいいな! よし貴様等、試験で高ポイント……いや、トップを取れたら褒美をやろうじゃないか!」


 「はあ? 何言ってんだおっさん? というかあんた一体何者なんだ?」


 胡散臭い。そんな感じの視線をザハックが投げかけるが、僕は別に興味があった。


 「……何くれるんだろ」


 「レオス!?」


 「おお、そういえば言い忘れていたか。俺の名はヒューリ。ここのギルドのマスターをしている。よろしくな」


 「あ、ども……って……」


 ニカッと笑い、握手を求めてくるヒューリ。つい握り返しながらエコールが叫ぶ。


 「えええええええ!? ギルドマスターちゅうたら一番偉い人だっぺや!? そげな人がどってオレ達んことを!?」


 「エコール、方言! 方言が出てる!」


 「お、おお……ど、どうして、ギルドマスターが……」


 「へ、へへ、ギルドマスターっていっても大したことねぇだろ……」


 流石に偉い人に突っかかったのはマズイと思ったのか、冷や汗を出しながら悪態をつく。ギルドにおいてマスターの意向と威光はかなち強く、ギルドマスターによっては逆らった冒険者をす巻きにして町の外へほおり出されるくらいのことはあるからだ。


 「まあそう固くなるなよ。……さっきまでの勢いでいいんだぜ?」


 「は、はい……」


 ザハックの肩にぶっとい丸太のような腕を回し、ウインクするヒューリさん。うん、あれは怖いな。


 「ま、そう言う訳で俺は試験官も兼ねるし、このとおりマスターだから褒美もやれる。どうだ、やる気が出ないか?」


 「……オレは何と言われようと試験に受かるだけです」


 「へっいい子ちゃんぶりやがって! そういうのが気にいらねぇんだ。俺は乗らせてもらいますぜ、褒美は俺のもんだ! 試験が楽しみだな。いくぞ、お前等」


 「へい!」


 「ひゃひゃは!」


 ザナックが取り巻きを連れて意気揚々と去っていくのを、リラが背後からあっかんべーをしていた。そしてヒューリさんへ向き、ニコッと笑う。


 「アタシも乗ります! どうせやるならあいつらを見返したいし、ご褒美がつくなら尚のこと!」


 「お、いいねぇ。そうこなくっちゃな。剣士のお前も頑張れよ?」


 「は、はい」


 「ま、あいつには負けないでしょ。それじゃ僕はこれで! 試験、頑張ってね」


 とりあえず見届けたので、彼等ともここでお別れだ。僕は僕の仕事をしないとね。にこやかに立ち去ろうとすると、ヒューリさんが首を傾げて言った。


 「ん? お前は試験に参加しないのか? というかもう許可証を持ってるとか?」


 「え? いいえ、持っていませんけど? 僕は商人ですから、戦いは得意じゃないんです。だから試験は受けませんけど――」


 そう言うと、リラが驚いて僕に酔ってきた。


 「え!? てっきり試験をするのかと思って名簿に名前書いちゃったんだけど……」


 「え!? 僕、商人だって言ったよね!? 試験は受けないから名前、消しておいてください」


 すると受付嬢のミューレさんがあらあらと声をかけてきた。


 「商人でも実力があれば取れると思うけどいいの?」


 「はい。どうせ試験には受かりませんしそれより(身バレと)ケガが怖いですから」


 僕がそう言い放つと、ヒューリさんが頭を掻きながら口を開いた。


 「そうか、そいつは悪かったな。無理強いはできないからこっちで何とかしておくぜ」


 良かった分かってもらえた! 路銀が少ない僕としては銀貨二枚も惜しいしね。


 「あーあ、一緒に試験うけられると思ったのにぃ」


 「レオスが決めたことだ、仕方ない。オレ達は宿へ行くが、レオスは商店か?」


 「うん。短い間だったけど楽しかったよ、試験頑張ってね」


 二人はありがとうと言いながら反対方向に歩きはじめた僕を見送ってくれた。さて、お仕事お仕事――


 そういえばそろそろエリィ達も旅立つころかな? 



 ◆ ◇ ◆




 <ノワール城>



 「ぐわ……!?」


 「それまで!」


 「あ、ありがとうございました……」


 「君は脇が甘いな。倒そうとするあまり力みすぎている」


 「わかりました! ご教授感謝します!」


 ここはノワール城の練武場。そこではレオバールが模擬戦で倒した相手を労い、また次の相手を相見まえる。その反対側ではルビアが稽古をつけていた。


 「一対多の時は足を使うんじゃないよ! 足技は強力だけど、バランスを崩しやすい。尻餅でもついたらあっという間に覆い被さられてジ・エンドになるよ」


 「うひひ……拳聖様に覆いかぶさる……」


 ドカッ!


 騎士がだらしないかおをしていりと、ルビアの蹴りが騎士の顔にめり込んだ!


 「ぐへ……!?」


 「『飛燕脚』……足技はこういう時に使うんだ」


 そう言ってウインクをするルビアに歓声があがり――


 

 「そう、集中してください。詠唱は口ではなく頭で考えるんです。そうすれば相手に悟られず次へ次へと行動に移れます」


 「は、はい……む、難しいですね……魔力が多い人と少ない人がいるのはどうしてですか?」


 「最初は誰でもそうですし、私もそうでした。いい質問です。体にある魔力は練れば練るほど色がかわ……じゃなくて、鍛えられますから魔力が低いと言われても鍛錬を続けていればきっと報われますよ」


 「は、はい! 頑張るぞー!」


 「おう!」


 「ふふふ」


 にっこりと微笑むエリィに、魔法使いたちはメロメロだった。



 「うむ、大魔王を倒した聖職に教えられれば騎士達も向上するだろう」


 「ですな。ウチのパーティは優秀ですから。しかし、大魔王を倒して平和になった今、鍛える必要があるんですかね」


 アレンが国王の隣でみんなの稽古風景を見ながら呟く。すると、国王は前を見たままアレンへと告げる。


 「大魔王が倒された。それは私も民も、世界中の誰もが喜んでいるだろう。しかし、魔物はまだ徘徊し、手の届かぬ地域は脅かされておるかもしれん」


 「そりゃ……分かりますけど……」


 「だがそれは建前だ。もう一つ懸念事項がある」


 「懸念……?」


 アレンが首を傾げて誰ともなく言葉を発すると、国王は空を見上げて語り出した。


 「人間だよ。大魔王が居なくなれば平和になる。恐らくこの先何年かは問題ないだろう、だが、そのうち領土を広げようと国が戦争を起こすこともあり得るのだ。手始めに大魔王が制圧していた地域の取り合いが始まるだろう」


 「あー……」


 分かっているのか微妙な返事をするアレン。国王は気にした風も無くさらに続ける。


 「そういう状況になった時、我等に火の粉が降りかからんとも限らん。そのための力なのだ。アレン、お前を姫と結婚してもらうのはそういうことでもある。いざとなれば、光の剣を国のために振るってもらうからな」


 「あ!?」


 「? どうした?」


 「な、何でもありません……(やべぇ、そういわれればそうなる可能性もあるわな……それに大魔王を倒した俺は言わば最強戦力。びびって暗殺を仕掛けてくるヤツがいるかもしれねえ……装備は全部レオスに売っちまった……ど、どうする……)」

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