その10 お決まりのお約束

 


 ――ミドラの町


 "アスル王国"の中心あるノワール城と城下町。そこに一番近く大きい町。それがミドラの町だとリラが話してくれた。ノワールの城下町からミドラの町の中間にはいくつか村があり、農作物や湖で取れた魚などを売りにこの町までやってくるのだとか。

 中に入るには通行するための手続きがいるとのことで僕たちは並んで待っていた。やがてトラブルも無く町へ入ると、リラが周りを見わたしながらニヤッと笑う。

 


 「アタシ達も魔物退治がてら野菜を売りに来ていたから、久しぶりってところね。ギルドがアタシを呼んでいるわ♪」


 「……あの、そろそろ離れてくれると嬉しいんだけど」


 「そうだぞリラ、レオスが困っている」


 「べーだ!」


 「くっ……」


 さっきの恋人じゃない発言にすっかりへそを曲げたリラがエコールにあかんべーをする。さすがに町の中でべったりされるのも困るので僕は腕を振りほどき、わざとリラにも聞こえるようにエコールに言う。


 「あまり邪険に扱わない方がいいよ? いつ何が起こって居なくなっちゃうかわからないんだ、大事なら大事ってちゃんと言っておいた方がいいよ。冒険者稼業が始まると特にさ」


 僕の言葉を聞いて足を止めるエコール。


 「……肝に命じておこう……何か、レオスの言葉は重いな……その、失ったことがあるのか?」


 「んーどうかな」


 「……アタシ達より年下なのに大人っぽいよねぇ。ね、恋人はいないの? 故郷にいるとか?」


 リラにそう言われてフッと頭に悪神になる以前の恋人が頭に浮かび、その後、エリィの顔が浮かぶ。


 ……彼女はエリーじゃない。名前が似ているだけだ……。そう胸中で呟き、僕は歩き出す。


 「居ないよー。ほら、仲直りしたんなら早く行こうよ。というか年下って……いくつなの二人とも?」


 「あ、待ってよ! エコール、行こう! アタシ達は18歳よ!」


 「ああ。」


 ちゃんと年上だったか……まあ前世から合わせると2042歳な僕からすれば、子供もいいところだけど。


 そんなことを考えていると二人が追いついてくる。ギルドまでの道は二人が知っているので、そこはお任せして僕は通りをざっと見ながら考える。

 

 「(武器屋と防具屋は同じ店か。あれは雑貨屋かな? 洋服屋にレストラン……なるほど)」


 どうして道中のお店を確かめているのか? もちろんお金を稼ぐためである。

 正直さっき冒険者の試験があると聞いて面倒だなと思ったのは内緒……。手持ちの金貨とお宝、それとスキルがあればまず路銀の確保はできると思う。


 となると『この町で何をするべきか?』それを確かめるべく商店を眺めているのである。


 「野菜や魚、果物を扱っているお店は無いの?」


 「え? うーんと、向こうの通りにあるわ。宿屋かレストランに行けば食事があるから買わなくてもいいと思うけど」


 リラが別の方向に向かって伸びる道を指して答えてくれた。なるほど、あっちか。


 「じゃあ僕はこっちに行くよ、野宿用の食料を買わないと! 助けてくれてありがとう、また!」


 別に僕はギルドに行くとは言っていないので、さわやかに、かつ自然に、リラが指さした方へ曲がり、手をあげる。


 「何言ってるのよ、そんなの後でいいじゃない。ギルド登録に行くわよ!」


 「やっぱり僕に冒険者は合わないから止めようと思ってるんだ」


 襟首を掴まれずるずると引きずられながら僕は首を振る。だけど、エコールもリラに賛同し頷いていた。


 「剣のおかげとはいえゴブリン二匹を倒した腕、商人だけにしておくのは惜しい。さ、行こう!」


 そう言って僕の足を持ち上げ宙ぶらりんで運ばれてしまう! あああ、この二人喧嘩したままにしておけばよかったぁぁぁ!?




 ◆ ◇ ◆




 <ミルドの町 冒険者ギルド>



 キィ……


 少々錆びついた扉を開くと、ギロリと中にいた冒険者達が一斉に僕たちに目を向ける。酒場と一体化しているようで、ジョッキにグラスを手に持った人が多いな。


 「ひぃ!?」


 その目線に驚き、リラがエコールの後ろに隠れて小さく呻く。エコールも気圧されたのか少し冷や汗をかきながら口を開く。


 「……こんにちは。新規登録なんですけど、いいですか」


 「はいはーい! 全然OK! 命の価値は自分で決める一攫千金と死は隣り合わせ……でもいいじゃない、たった一度の人生だから! 冒険者ギルドへようこそ! あ、私は受付嬢のミュールと言います」


 「あ、ご丁寧にどうも」


 窓口に行くと茶髪ポニテの女の子がウインクをしながら物騒なフレーズ(言わないとダメなのだろうか?)を言いながら話しかけてきた。ぺこりとキレイなおじぎをしたので僕も釣られてしてしまう。するとその様子を見ていた冒険者達も『新参者か……』と、自分たちの世界へ戻っていく。



 「さて、君達はギルドのことは知ってる? 冒険者登録には試験を受けないといけないしお金もかかるの」


 同じ女の子だから安心したのか、リラが手を上げて口を開いた。


 「あ、はい! 銀貨二枚ですよね、それと試験も大丈夫です」


 「そうなのね、それじゃここに試験受付名簿があるから名前を書いて」


 「分かりました」


 エコールとリラが名簿を書いているのを横で見ていると、エコールが名簿を見てハッと気づく。


 「……ザハック」


 「え? あいつがいるの!?」


 リラが驚いて名簿を見るとあちゃーといった感じで額に手を当てて呻いたので、僕は尋ねてみた。


 「ザハックって誰なんだい? 知り合い?」


 「隣村のやつで、一つ年上の男だ。取り巻きを連れて魔物退治をしていたところに出くわすことがあったが、いけ好かないやつだった」


 「ねー。アタシをいやらしい目で見ていたし――」


 「どこかで聞いたことがある声だと思ったらエコールじゃねえか!」


 リラが言い終わらない内に後ろから声がかかり、振り向くと短い髪角刈りみたいにした男がにやにやと笑いながら近づいてきていた。後ろには……さっき言っていた取り巻きかな? 二人後に着いてくる。


 「何してるんだこんなところで? まさか冒険者登録か? ははは、止めとけ止めとけ。お前の腕じゃゴブリンに殺られちまうぞ? リラもそんなよわっちいヤツらなんかと組まないで俺達と一緒に組もうぜ? 試験に受かったら可愛がってやるぜ!」


 「ですよねー」


 「ひゃっひゃっひゃ、ザハックさんの言うとおり!」


 "ヤツら"って僕も数に入れているのか……まあこの状況だとそう見えるかな。僕はため息を吐いてザハックというやつへ言う。


 「僕は冒険者じゃない。商人だ。だから、一緒にされても困るよ。でもこの二人が君より弱いとは思えないかな? 会ったばかりだけどさ。受付けは済んだんだろ? 行こう」


 こういう手合いは相手にしないに限る。僕の嫌いな人種だから、ハッキリ言ってやった。


 「え、うん……」


 「ま、待て、レオス」


 僕は二人の背を押して外へ出ようと歩き出す。しかし――


 「……! こいつ……!」


 「え? ぐっ……!」


 声をあげてたのが聞こえてきたので振り向くと、ザハックが僕に殴りかかってきていた! ガツン! という衝撃音と共に僕は派手に壁に叩きつけられる! ……けど、拳は直前で防御魔法<フルシールド>で防いだんだけどね。無傷だと怪しいので<ファントムビジョン>で頬を腫れあがらせておく。


 「ザハックさんを馬鹿にしやがって! ざまあみろ!」


 「ひゃっひゃ、生意気ですぜ!」


 ザハックと取り巻きが明らかな敵意を向けてくる。僕はゆらりと立ち上がり、三人を見る。


 「気が済んだかい?」


 「な!? ば、馬鹿な!?」


 フフフ、僕の睨みにびびってザナックが後ずさり、取り巻きに言葉を続ける。


 「お、俺、左頬を殴ったよな!? 何であいつ右頬が腫れてるんだ!?」


 「お、おれっちには分かりませんや!?」


 「あ、やば。 ……気が済んだかい?」


 実際に殴られてないから鏡写しって難しいよね……もう一度魔法をかけ直して睨む僕。


 「お、あれ!? 左頬が腫れた!? どうなってんだそれ!? くそ、意味がわからねぇが生意気なヤツだ。エコールともどもやっちまえ!」


 くそ、殴らせておけば気が済むか、睨めば怯んで退散するかと思ったけどそうでもなかったか! わざわざ使いたくない魔法まで使ったのに! 仕方ない逃げるかな。そう思っていると、僕とザハックの頭に拳骨が落ちた!


 ガッ! ゴッ!



 「うわあ!?」


 「いってぇぇぇ!?」


 「「レオス!?」」



 「貴様等、元気がいいな! その元気、試験で見せろってんだ!」


 僕が床で呻めき、チラッと見上げると、筋肉隆々の大男がニカッと歯を見せて笑っていた。

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