その8 僕は自由だ!


 ホー……ホー……


 くわっくわっくわっ……


 リリリリ……


 


 「……そろそろ野宿の準備をしないといけないかな」


 虫やふくろうの合唱が始まり、夜がふけてきたことを告げる。ノワールの城下街を出てから結構な時間が経過したと思う。ちなみに時間の計測は地球と同じで、パレードが十八時くらいに行われ、今は恐らく二十三時というところかな。

 僕は街道から少し逸れて森の入り口へと足を踏み入れる。流石に道端で寝転がる訳には行かないからね。


 「覚醒前ならこんな森で野宿なんかやってたら即死ものだけど……<ファイア>」


 適当に集めた枯葉に火をつけて暖を取る。今は春に近い季節だけど、まだまだ夜と早朝は肌寒い。カバンから干し肉を取り出して炙るといい匂いがしてくる。


 「はふ……はふ……美味いっ!」


 お酒でもあればと思うけど、着の身着のままって感じで出てきたからそういった類のものは用意できなかったので、食事も干し肉と固いパンだけ。城の柔らかいパンを恋しく思いながら夜空を見上げて呟く。


 「静かだなあ。アレン達と旅をしていたころは毎夜お祭り騒ぎみたいなやかましさだったから新鮮だよ」


 それも終わって僕は自由になった。正直なところこんなに嬉しいことは無い……


 「お金はかなりむしられたけど、自由があるからいいじゃないか。ねえ?」


 「ガウ!?」


 僕の干し肉を狙っていた狼がびっくりして逃げ帰って行く。眠っていたら危険だし、防壁を作っておくかな。


 「<クリエイト・アース>」


 ズズズ……


 僕の手から放たれた魔力が土に干渉してもこもこと動き出し、四角い箱のような建物を形どっていく。焚き火の傍に僕専用のシェルターの完成ってわけだ!


 「ちょっと狭かったかな……久しぶりだから加減が分からないや……」


 とまあ、簡単に作ってみたけど本来この世界には無い魔法なので人前では使えない。


 僕が悪神だった世界では魔法は自分で編み出すものだったけど、この世界は四属性と光・闇を基本とした魔法があり、勉強すればある程度は誰でも使えるのが特徴だ。水から氷が生み出せる認識も当然ある。特殊なところで精霊魔法というのもあるらしいけど、これはエリィが使えなかったので詳細は不明……

 

 とりあえずこの世界は各属性ですでに先人が作った魔法が存在し、それを覚えるという感じなのでぶっちゃけ面白味は無いんだよね、この世界の魔法って。


 ファイア→フレイム→エクスプロードみたいに攻撃魔法なら順繰りに威力が上がって行くわけだけど、きっちり魔力を練り上げれば誰でも使えるわけだからね。

 そこをいくと僕の魔法は僕がイメージしたものが反映されるから何でもできる。このシェルターを作ったクリエイト・アースを見てもらえれば分かるかと。

 

 ……というかいったい誰に説明しているんだ僕は……それはともかく今後の青写真を考えないと。


 「とりあえず商人一人で旅をしているのは怪しいから国王様からもらった魔剣は出しておこう。確か名前は″セブン・デイズ"だったかな?」


 文献など無いからどういう効果がある魔剣かは国王も知らないと最後に会った時に言われた。ただ切れ味は物凄いのでそれだけでも十分価値があるだろうと笑っていた。あの国王は親しみやすかったなあ。ああいう人だと国も安泰だろう。それだけにあのニヤついた王子とアレンが心配だけど。


 「後は……地図が欲しいな。できれば冒険者証も発行しておこうかな? 路銀稼ぎに使えるし、次の町にギルドがあったら尋ねてみよう……ふあ……そういえば僕が居なくなったからエリィはどうするのかな……」


 ざっと国と国の距離を考えるとおよそ二万キロ……僕の実家はまだまだ遠い……





 ◆ ◇ ◆




 「レオス君! レオス君! パレード終わりましたよ! さっき街に出てましたけどどうして――」


 レオスにあてがわれた部屋へやってきたエリィ。扉を開けて驚愕の表情を浮かべた。


 「真っ暗……それに荷物も無い……?」


 「おや? エリィ様どうされましたか?」


 ちょうど通りかかったメイドさんが立ち尽くしているエリィを見て声をかけてきた。エリィは向き直り、メイドさんへレオスについて尋ねる。


 「ここに居たレオスという商人がどこへ行ったか知りませんか?」


 「え? 彼はパレードが始まる直前に城を出立しましたよ? ご存じなかったのですか?」


 「え……?」


 エリィが短く呟くと、廊下からアレン達が向かってくるのが見え、メイドさんにお礼を言ってから合流する。


 「あ、あの、レオス君が居ないんです! 出立したって言ってました。アレン達は何か聞いていますか?」


 「え、本当かい? ……荷物が無い、完全に引き払っているわ」


 するとアレンがフッと笑ってからエリィの前に立つとこう告げた。


 「レオスは故郷へ帰るってさ。エリィ、お前が来るのは申し訳ないからってさっさと出て行っちまった」


 「あ、ああ、そうだったな! さっきパレードの途中でレオスを見ただろ? 丁度出て行くところだったんだよ」


 レオバールが話を合わせようとしたが、それがいけなかった。エリィは激昂してレオバールに食って掛かる。


 「ど、どうしてあの時嘘をついたんですか!? 夜に一人で街を出るなんて自殺行為ですよ!」


 「さあな……あいつが何を考えているかは分からない。レオスは去った、それだけだ」


 冷淡に言うレオバールに怯みつつも、エリィは言葉を続けた。


 「今からなら追いつけるかも……私、追いかけます!」


 「お、おい、それこそ危険だろう!?」


 駆け出そうとするエリィ。それを制止するレオバール。振りほどこうとするエリィに、意外な人物が声をかけてきた。


 「なんだ? お前達、レオスの部屋の前で何をしているのだ?」


 「国王様!? どうしてこんなところに」


 驚いたのはアレン。どうして国王がレオスの部屋にと考えていた。


 「ああ、レオスに魔剣の使い方が載った文献があったから教えてやろうと思ってな。あの剣なら商人のレオスでもいざという時戦えるだろうと思ってな。あれ? 居ないじゃないか。まだ街から帰ってないのか?」



 「それが――」


 パレードを見に行くと言われていたので、そろそろ戻っているだろうと思っての行動だったが、エリィの言葉で腕を組んで考える。


 「出て行ってしまったのか……さっき会った時はそんな様子は無かったんだがなあ」


 「あの、私追いかけるので行っていいですか?」


 「む。それはならん」


 「え!?」


 国王の意外な言葉にエリィは思わず驚愕する。


 「もうパレードも終わりましたし、報酬も貰いました。自由ですよね!」


 「いや、明日から数日は騎士達の訓練や公儀、魔物の狩りに参加してもらうつもりでな。魔法のレクチャーなんかもお願いしたい」


 「で、でも、無事に送り届けるのが賢聖や勇者の役目……」


 「なに、レオスももう成人しているのだろう? 大丈夫、魔剣も持たせているからな。それに聞いたところレオスの故郷は遠い。全部が終わった後追いかけても間に合だろう?」


 「(エリィ、国王に逆らってもいいことは無いよ? 国王の言うとおりレオスも大人だ、大丈夫だって)」


 「(ルビアさん……分かりました)すみません、取り乱したりして。分かりました……」


 エリィがとぼとぼと歩いていく姿を見て、レオバールはニヤリと笑う。


 そんな中アレンは空気、ルビアは肩を竦めていた。


 国王は城で理解を示してくれる者が居なかったお宝の話ができなくて残念だと少し寂しそうだった。

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