その4 言いたいことは物怖じしないでハッキリ言いましょう
「な、何を言ってるんだよアレン! あんたはあたしと結婚するって……」
「なに、そうなのか?」
ルビアが青ざめた顔でアレンに言うが、アレンはどこ吹く風で前を見ている。そこに国王がアレンに尋ねると、アレンはさらに驚愕なことを告げる。
「いえ、以前はそう言う話もありましたが、今は全然」
「全然!? どういうことだよ、あたしを捨てるっての!」
ルビアが立ち上がって掴みかからん勢いで言うと、アレンはため息をついてルビアを見た。
「だってよ、エッチなことをしようとしても『子供ができたら困るから』とか言ってさせてくれなかったろ? 俺も我慢してたけど、姫と結婚できるならそっちの方がいいや」
「ば……当たり前でしょ!? 大魔王討伐してる最中に妊娠でもしたら戦えなくなるでしょうが! だからあたしは散々『倒してからならいくらでも』って言ってたわよね」
「俺はその時が良かったんだ。言いたいことはそれだけか?」
「こ、こいつ……」
「……もうよせルビア。あれは金勘定を考えている顔だ。昔のあいつはもういないんだ……」
「嫌な悟り方をするね……」
顔をぴくぴくさせているルビアにレオバールがそんなことを言い、ルビアに膝をつかせる。アレンはアホだけど、ここまでだったとは……
「う、う……」
あちゃー……ここで泣いちゃうくらいだからよほどショックだったようだ。一方アレンを見ると、金と権力に目がくらんだというレオバールの意見もあながち間違いではなさそうだ。前言撤回。アレンはクソ野郎である。
「あーゴホン! ……ではアレンよ、良いのだな?」
「はい。お受けいたします」
「お、おお! 大魔王討伐だけでなく姫の結婚も決まるとは……! ほ、ほら、お前達拍手だ!」
「え、ええ! おめでとうございます! 勇者アレン! 勇者アレンー!」
流石の家臣たちも今のやりとりで引き気味だったけど、おめでたい話ということで何となく盛り上がらせようと必死だ。すると、顔を赤らめた姫が前へ出てアレンへ話しかけた。
「ありがとうございます、アレン様。初めて見た時からお慕いしておりました……ルビア様、申し訳ありません……」
「……」
姫を無言で睨みつけるルビア。悪いのはアレンだけど、どこに怒りをぶつけていいか分からないのだろう。僕は何となく口を開く。
「あ、あの、恐れ多いですけど、そういうのは言わない方がいいですよ姫様気を使っているつもりが逆にダメな場合があります。……ルビアも他にいい男が見つかるよきっと」
「レオス……」
「も、申し訳ありませんでした……」
そそくさと姫が戻ると、今度は王子が相変わらずにやにやとしていて、そのままエリィのところへやってきた。
「それじゃ今度は私だな。賢聖エリィよ、お前は私と結婚するのだ」
「な!?」
その言葉に焦ったのはレオバールだ! さっきからエリィを見てにやにやしていたのはこのためか! 周りも「ほほう、確かにあの美貌なら……」とか「賢聖の血筋なら国も安泰……勇者と共に繁栄が約束されるというもの……」などを話し合っていた。
しかし、当のエリィはルビアを慰めながらきょとんとした顔で王子に告げる。
「え? 嫌ですけど……」
バッサリだった。
「なななな、何故だ……!? 私と結婚すれば富も名誉もなんかこう色々思いのままだぞ」
語彙が少ないなあ……そんなことを考えていると、エリィがハッキリとした口調で頭を下げながら文言を並べ立てた。
「私はまだまだ修行中の身。結婚はまだ考えておりません。それに私が王子と結婚など恐れ多いと思っていますので、辞退させていただきます」
エリィは物事をハッキリ言う。これは王子が嫌いだとか結婚が嫌だとかそういうものではなく、エリィはこういう性格である。
「ぐ……! わ、私がいいと言っているのだ、それでいいではないか!」
「いえ、私が納得できていませんから結婚生活は破綻すると思います」
「ふっふ、ハッキリものを言う。王子、お前の負けだ、同意が得られなければこの話は無しだ、無理強いはいかん」
「……わかりました」
国王の鶴の一声で王子はがっくりと肩を落として元の位置に戻って行く。頼むから逆恨みとかしないでくれよ?
僕は過去の経験からこういうことには後で何かしら大事になることを知っている。エリィは強いから大丈夫と思うけど、お別れの日までは警戒しておこうかな?
「では、褒賞の儀を終了とする! 勇者一行は明日のパレードまで城で寛いでくれ!」
「ハッ! ご厚意に感謝いたします」
アレンのアホが仰々しくそんなことを言い、謁見が終了した。僕たちは謁見の間を出ると、大きく伸びをして開放感を得ることができた。
「うーん……ずっと片膝だから疲れたね。夕食はどうなるのかな?」
僕が言うと、近くに居たメイドさんが笑いながら返答してくれた。
「フフ、本日はご一緒に広間でお食事になります。明日はパーティーですから楽しみにしていてください」
「あ、そうなんですね」
「時間が来たらお部屋に呼びに参りますので、おくつろぎください」
「ご丁寧にありがとうございます」
エリィがおじぎをしてメイドさんを見送る。僕たちは一人ずつ部屋を割り当てられているので、後はゆっくりするだけだ。
しかし――
「アレン、本当に姫と結婚するのか?」
「ああ、勿論だ。どっかの格闘女より美人だし、お金もあるからな」
「……っ」
レオバールの言葉にアレンが酷い言い方をした。
聞いたルビアが顔を顰めて僕たちに背を向けると、無言で部屋へと歩き出す。アレンは悪びれた様子も無く、鼻を鳴らして見送り、慌ててエリィがルビアを追いかけて走った。
「ま、俺達はこれで解散だから好きに生きるだけだ」
「お前もエリィを狙ってんだろ?」
「……ああ。王子があんなこと言い出して肝が冷えたがな。少し疲れた、俺も部屋へ戻ろう」
手を上げてレオバールも歩き出し、僕はアレンと二人になる。
「……僕が言うことでも無いんだけどさ。ルビアのこと本当にいいの?」
「うるせえ。レオスのくせに生意気言うな! これで俺の人生は安泰なんだ、邪魔するなよ?」
「痛っ!? 殴ることないだろ! ふん、いつか後悔すればいいよ!」
思う所があっての行動かと思ったけど、どうも本当に可愛い姫とお金に目がくらんだらしい。レオバールの言うとおり僕たちはもう解散するのでアレンがどうなろうが知ったこっちゃない!
「あ、そうだレオス――」
アレンが何か言いかけたが、振り返らず僕は部屋に戻り、ベッドに寝転がる。だけどイライラがおさまらない……
「あーもう! 早く家に帰りたい!」
「入るぞ」
「うえ!? どうぞ!?」
僕が叫んだ瞬間扉の向こうで声がかかり、僕は驚きながら丁寧なあいさつをした。そして入ってきたのは――
「国王様!?」
「うむ。宝物庫の件を済ませるために来たぞ。では行こうでは無いか。お主、珍しいカバンを持っておるらしいな?」
「へ? ええ、まあ」
僕の言葉を聞いて、国王はニヤリと笑うと、僕の手を引いて宝物庫に向かって歩き出した
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