ミラベルは王子様に気に入られたのですが……ゼロから始まる幸せ探し

東雲まいか

第1話 プロローグ

「ねえミラベル、よーく話を聞いて! 私たち明日ここを出て行かなければならないの!」


 突然の話で、何のことやらわからずきょとんとしているミラベルに、母のアプリコは言った。


「ああ……お父様が商売を広げようと高利貸しにお金を借りて……騙されて家も財産も失ってしまったのよ!」


 一体何を言っているのだろうか、全く理解することができない? 俯いて黙っていた父のソイが、重い口を開けた。


「う~ん……そういうことなんだ! だから、奴らに見つからないように、明朝明るくならないうちにここを出て行くぞ。あ――、お前たちには申し訳ないことをした。すべて私の責任だ! 恨むなら俺を恨んでくれ!」


「お父様が悪いんじゃないでしょ。出て行くなんて嫌! そんなこと許されるはずがない! 家は市場でも評判の仕立て屋じゃない。悪い奴らの暴挙を明るみに出して、堂々とここにいるべきよ!」


「私としたことが……証書にサインしてしまったんだ。もはや終わりだ。なかったことにはできない」


「家を出て行くなんて、今まで勉強してきたのは何のためなの!


 貴族の子息に気に入られるために、幼いころから家庭教師の指導の元で勉強し、お稽古事も嫌がらずに必死でやってきた。それがすべて無駄になってしまう。 何のために今まで頑張ってきたのか。


「出て行くなんて嫌よ――っ!」


「ミラベル御免よ。いつかまた三人で暮らそう」


――スモモの様にかわいらしいミラベル!


 両親は生まれた時、愛くるしい表情をしたその子をミラベルと名付けた。十八年が過ぎ、ほんのり薔薇色をした頬と小さな目鼻立ちがかわいらしい娘に育った。それなのに……


 ミラベルは、これが夢ならすぐに冷めてほしいと願ったが、現実は冷徹な事実を突きつけるだけだった。彼女は夜が更けると持てるだけの荷物をまとめ鞄一つに全て詰め、空が白み始めるのを待った。


「ねえミラベル、よーく話を聞いて! 私たち明日ここを出て行かなければならないの!」


 突然の話で、何のことやらわからずきょとんとしているミラベルに、母のアプリコは言った。


「ああ……お父様が商売を広げようと高利貸しにお金を借りて……騙されて家も財産も失ってしまったのよ!」


 一体何を言っているのだろうか、全く理解することができない? 俯いて黙っていた父のソイが、重い口を開けた。


「う~ん……そういうことなんだ! だから、奴らに見つからないように、明朝明るくならないうちにここを出て行くぞ。あ――、お前たちには申し訳ないことをした。すべて私の責任だ! 恨むなら俺を恨んでくれ!」


「お父様が悪いんじゃないでしょ。出て行くなんて嫌! そんなこと許されるはずがない! 家は市場でも評判の仕立て屋じゃない。悪い奴らの暴挙を明るみに出して、堂々とここにいるべきよ!」


「私としたことが……証書にサインしてしまったんだ。もはや終わりだ。なかったことにはできない」


「家を出て行くなんて、今まで勉強してきたのは何のためなの!


 貴族の子息に気に入られるために、幼いころから家庭教師の指導の元で勉強し、お稽古事も嫌がらずに必死でやってきた。それがすべて無駄になってしまう。 何のために今まで頑張ってきたのか。


「出て行くなんて嫌よ――っ!」


「ミラベル御免よ。いつかまた三人で暮らそう」


――スモモの様にかわいらしいミラベル!


 両親は生まれた時、愛くるしい表情をしたその子をミラベルと名付けた。十八年が過ぎ、ほんのり薔薇色をした頬と小さな目鼻立ちがかわいらしい娘に育った。それなのに……


 ミラベルは、これが夢ならすぐに冷めてほしいと願ったが、現実は冷徹な事実を突きつけるだけだった。彼女は夜が更けると持てるだけの荷物をまとめ鞄一つに全て詰め、空が白み始めるのを待った。


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