第6話 仕事をするぞっ
登録が終わると軽くギルドの依頼の受け方とマナーやルールの説明を受けた。簡単に言うと壁に張り出されている依頼書を選びカウンターに持ってきて依頼を受けること。依頼の失敗にはペナルティがあること。冒険者同士での争いもペナルティがあるということ。獲物の横取りやわざと危険な目に合わせる行為もペナルティがあるということなど…まあそれほど多くなく難しくもなかったわけなのですが、彼女はその説明の間ウトウトとしておりあまり話を聞いていなかった模様。流石にお腹が空いて、限界が近いのかもしれない。
「魔王さ…いえ、マノン様」
「そうじゃのう…」
「まずは簡単な依頼を受けて食事をしましょうか」
「そうじゃのう…」
「私が決めてしまってもよろしいですか?」
「そうじゃのう…」
同じ返事しか返ってきません。少し急いだほうがいいかもしれませんね。ぼんやりとしている彼女を抱き上げ私は依頼を物色することにした。
「そうですね…マノン様がこんな様子ですからねぇ…この辺がよさそうですね」
私は一枚の紙を壁からはがすと先ほどと同じ女性のいるカウンターへと足を運んだ。
「あら…マノンちゃんは眠そうですね」
「かもです。で、この依頼をお願いします」
「はい、受理完了です」
女性にお礼を言った私は彼女を抱えたまま依頼の目的地へと向かう。目的地は町の中にある宿屋。討伐依頼などを受けたほうがレベルが上がるのですが、今彼女がこんな状態なので手っ取り早く宿屋の清掃依頼を受けることにしたのです。
「ここですね」
宿屋の前に着くと私は早速中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいっ 宿泊かい、食事かい?」
「ギルドから依頼を受けてきました」
「ああそっちかい。なら早速頼もうかねぇ…っと嬢ちゃんはこっちね」
「ふぇ?」
「ここでヤギのミルクでも飲んでな」
どうやら彼女は座っていて問題がないようでそのことにはとても感謝した。私がここで行う掃除は2階と3階の宿部分。すべての部屋の掃除になる。一部屋は割と狭いのですぐに終わる。すでに宿泊していて利用されている部屋もあるのだが、それもお構いなしに掃除していいそうでカギは預かっている。ただし客の荷物には一切触れないのがルールだそうです。そうたとえその足元が汚れていても、だとか。
魔王城で常に彼女の身の回りの世話をしていた私にはとても簡単すぎた仕事だった。すべての部屋と廊下、壁…ついでに天井も含めて一時間で終わってしまう。
「これは中々よい仕事なのでは…?」
ついつい独り言が出てしまう余裕があるくらい楽な仕事だった。一階へと降りると私は女将さんに掃除終了の報告をすることにした。
「終わりましたので確認をお願いします」
「終わったってあんた…まだ一時間しか経っていないじゃないかっ」
「ですから確認していただければわかりますので…」
「手抜きなんてしてたら報酬下げるからねっ?」
どすどすと大きな足音を立てながら女将さんは2階へと上がっていった。その様子を私は後ろから眺めつつ戻ってくるのを待つことにする。ヤギのミルクを飲ませてもらった彼女は少しだけ空腹が落ち着いたのか、にやけながらうつらうつらと船をこいでいた。
「ちょっとちょっとちょっと…おにいさんっ」
「はい?」
「いい腕してるじゃないかっ しかも早いと来た。なああんたうちの専属にならないかい?」
「専属といいますと…掃除の?」
「そう、掃除の」
「えーと一応冒険者ですので…掃除だけというわけにはいきませんし、ずっとこの町にいるともかぎりませんよ?」
固定の仕事が出来るのはとてもありがたいのですけれども、掃除だけだとレベルがられないのです。流石にこれはお断りするしかありません。
「この町にいる間だけでいい…一部屋タダでどうだい? もちろん嬢ちゃんと一緒に、だ」
「悪くない話ですけど…」
「なら食事つきならどうだい」
ぐうううう…と彼女のお腹が返事をした。
「うわあっ」
彼女は慌ててお腹を押さえているがすでにその音はもう消すことができない。
「はあ…わかりました。毎朝出かける前の掃除でいいでしょうか?」
「もちろんさ! こっちは一部屋食事二食つきを二人分だ。あー部屋は悪いけど一部屋だけで頼むよ。見た感じ兄妹だろう?」
「えー…あー…まあ」
「じゃあ決まりだねっ」
とりあえず今回の依頼の達成報告をギルドにした後、女将さんに部屋を案内してもらうことになった。
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