第5話 勘違い

 蛙の腹部圧迫攻撃フライングボディプレスをひたすら浴び続け、自分の全身が原因不明の粘膜におおわれ出した頃、蛙の前に一つの人影が見えた。


 充は蛙の腹部圧迫攻撃フライングボディプレスをくらい、体勢を崩している状態だったので良く見えない。

 だが、その影はとにかく行動が早かった。

 充の頭のすぐ近くまで来ると、目にも止まらぬ早さで蛙を一刀両断。

 

 アールヴに騙されたとは言え、自分なりには最大限の力を込めたはずの一撃だったのだが、なんなく跳ね返された。

 それなのに助けてくれた誰かは、いとも容易く蛙を葬り去ってしまったのだ。

 自分の無力さを嘆きつつ、とんでもないピンチを救ってもらったということで充は、お礼を言おうと立ち上がり相手の方を見たのだが……


 充は相手に礼を言わずに相手とは反対方向を向いてしまった。

 自分としても明らかに失礼な態度と言うことは理解しながらの行動である。

 

 と言うのも……

 助けてくれたのがアールヴだったからだ。


 「ちょっと、アールヴ!何やってるんですか?」

 「何って、お前。助けてやったんだろうが!」

 「助けた?違うでしょ。アンタ、俺をはめたでしょうが!」

 「はめた?ん?何か悪いこといったっけ?」

 「アンタね、俺にチェストって言えとか言ってたでしょ?あれ何だったの?」

 「あー、あれね!ほんとお前、ちょーマジメな顔して全力で掛け声出して突っ込むからよ。ほんと見てるこっちとしては、ちょー爆笑だったっつーの。あれ見た瞬間、腹がよじれるかと思うほど、大爆笑の嵐だったよ。ナイスセンス!」


 アールヴは右の親指を上げながら充の方を向きにポーズを決めてくるが…


 「ナイスセンス!じゃないですよ。こっちは、あの瞬間、殺されると思ったんですよ。それに、見てください、この格好!全身ベトベトで、もうどうしたらいいのか……」

 「あー、そのベトベトなら、あの坂から少し行った方に行くと湖があるから別にいいんだけどよ……。でもよ、お前、言ってること、ずいぶん変じゃねぇか?なんか今聞いてると、お前、死にたくねぇみたいに聞こえるぞ」

 「えっ?変?死にたくない?」

 「何度も何度も言ってるけどよ。お前、さっきまで死ぬつもりだったんだよな?どうもお前の今の話の内容だと、お前に本気で死ぬつもりねぇんじゃねーのかなって思えてくるんだよな」

 「でも、今回のこれは、お互いの賭けですよね」

 「おう!内容はお前が自分の人生を有意義に過ごせるかどうかって内容だろ?」

 「はい、そうですよ」

 「お前、それなら仮に今のモンスターと戦ってお前が負けて殺された場合、お前の勝ちってことなんじゃねぇーか?」

 「えっ…、どういうことですか?」

 「お前ら人にとっての有意義って言うのは、自分の力を残さず出しきれた状態のことなんじゃねぇのか?」

 「ん?違いますよ。有意義って言うのは、どれだけ人生を友好的に楽しめたかってことですよね?」

 「それは上手い飯食って、綺麗なねぇーちゃんはべらせて、良い家に住んでって意味に聞こえるんだが?」

 「そこまで行くと話が飛び過ぎですけど、でも仮にそういう人生を歩めれば間違いなく僕の勝利だとは思うんですけど」

 「なるほどな……、そういうことか……」


 アールヴは一言発すると、何か自分の中で考え出すように腕を組んでしまった。


 「とりあえず全身のベトベトを洗い流したいので、先ずは湖を探しに行ってきても良いですか?」

 「あー、ちょっと待て!獲物を先に解体しておいた方がいいな。どうせ慣れてないと、またベトベトになるだけだからよ」


 アールヴは、そう言うと腕を組みながらも右手の親指で器用に蛙を指差す。


 「えっ……、ちょっと待ってください。解体?どういうことですか?」

 「どうって、お前、あれ捌いて食う部分、使う部分、売る部分に分けとかねーと大変だろ」

 「えっ?売る?」

 「っそっ!売るのは特に重要だな。金がねーと、これから何にもできねーしな」

 「売らないと金がない?えっ……、倒すと勝手にお金や経験値がもらえたりとかじゃないんですか……?」

 「お前、何言ってんだ?ここに二人しかいないから良いけどよ。場合によっては頭おかしくなったのかとか思われるぞ!倒すと勝手に金とか貰える分けねーだろ。それに経験値ってなんだよ。まだ前の世界の感覚が抜けねーのか?まー、時間たってねーし仕方ねーか。まー、とりあえず俺が当面の間は手取り足取り教えてやるよ。感謝しろよ、こんなサービスなんてほとんどねーぞ」

 「えっ……、いやいやいや、無理ですよ。何言ってるんですか?そんなこと出来るわけないですよね。こんな大きな蛙を捌く?何を言ってるんですか?いや、仮に捌いたとしましょう。ですが捌いたところで、どうやって運ぶんですか?ねっ、運ぶなんて出来ないですよね」

 「あーそっか、さっきは服と変な棒しか渡してなかったよな」


 アールヴは、そう言うと充の目の前に30Lサイズのごみ袋と同程度の一枚の布袋と果物ナイフに比べて一回りほど大きい感じのナイフ、後は布切れなのか、紙なのか良く分からないような雑貨的な物を僅かばかり出現させた。


 「えっ……、なんですか?これは?」

 「ん?袋の方は魔法の袋って言うアイテムで、簡単に言うと収納用のアイテムだ。中開いてみると分かるけど、見た目以上に入るから心配しなくて良いぞ。ナイフの方は、棒きれより刃物の方が解体作業はやり易いからな、ってことでそれやるよ。あっ…ちなみに、さっきの蛙、俺が一撃で沈めたの見たと思うけど、打撃系は跳ね返すけど、ナイフとか斬撃系だとあっという間に倒せるから次からそうしろよな」

 「次からって……。最初から、そっち渡してくださいよ……。全く……」

 「いやー、色々と思うところがあってな~。後、チェストの時の顔、最高だったぞ!」

 「もう!それは、やめてください!」

 「分かった。分かった。早めに終わらせねーと、今日中に町まで行けなくなっちまう」


 充はアールヴに色々と言われながらも渋々ではあるが、蛙の解体作業を行っていった。

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