第25話


「……」


しばらく沈黙が続き仕方なく僕から話しかけた。


「こういったら失礼だけど、なんでこんな店に勤めてるの?

君ならキャバクラとかで稼げそうなのに?」

「あっ、う~ん、見ての通りおしゃべりがうまく出来ないんです。

ああいうお店ってしゃべれないと務まらないでしょ。

だから、あたしにはちょっと無理かなぁって」


「そう、でも、ああいうのって慣れじゃない?

何人か客をこなしていくうちに慣れてくるものじゃないかなぁ」

「そうですかね。どうも、慣れない気がして……」


また、沈黙に陥りそうになったので、先ほど言いかけていた趣味の話を振ってみた。


「あっ、音楽が趣味って言ってたけど、どんなの聴くの?」

「はい、何でも聴きます。ロックはハードコアもいいし、JPOPももちろん聴きますし、ジャズなんかも好きです」


「幅広いね」

「はい、それと聴くだけじゃなくて、るんです」


「ヤル?音楽を?バンドかなんかやってるの?」

「はい、ライブやってます」


「楽器は?」

「ギターボーカルです」


「へぇ、見えないね。ていうか、そんなに大人しくて歌えるの?」


ヒカルが急にうつむいて無言になった。

余計なことをいってしまったらしい。

そして消え入るような声で


「歌えます……」


とつぶやいた。


「あっ、ごめん、ごめん、そういうつもりで言ったんじゃなくて、普段大人しそうだから大きな声でるのかな?って思って……演るのはどんな音楽やるの?」


再び顔を上げたヒカルは先ほどまでとは打って変わって


「いまはコートニーラヴ、とか、日本だと椎名林檎とかやってます。オリジナルもやってますよ!」


生き生きしている。


「そうなんだ、実は僕も学生時代バンドやってたんで少しは音楽も知ってるよ」

「ほんとですかぁ!。楽器は何を?」


「うん、ドラムをね」

「えードラムですかぁ、すごーい!ドラムだけは練習してもなかなかうまくならないんですよ」


「いやぁ、練習してればなんとかなるよ。といってもそれほどうまくはないけどね」

「でもすごいです。ドラムやりたいんですけど、自力じゃ難しくて」


「教えてあげようか?」


思わず口走ったあと、後悔した。


確かにドラムはやっていたし、その頃はライブもアマチュアながら結構やっていたので自信はあったが、あれから十年近くも叩いてないから今は思うように手足が動かないかもしれない。


「ほんとですかぁぁ!、うれしい!ぜひ教えてください。

今度一緒にスタジオはいりましょ!」


さっきまでの大人しい彼女とは別人の様に生き生きとはしゃいでいる。

笑った顔は本当に可愛らしい、髪もショートでイマドキに珍しく黒髪でメイクもそれほど濃くはないが、二十歳という若さからか肌は張りがあり、笑うと少しえくぼができる。


それが幼さを感じさせるが、対照的にすらっとミニスカートから伸びている足、スレンダーな身体つきは十分に女の魅力を兼ね備えている。


正直、深雪を失って以来異性に魅力を感じたのは久しぶりだった。


「あっ、ねぇ、唄ってみてよ」

「えっ、今ですか?」


「うん、今、聴きたいな、君の歌」


自分でもよくわからなかったが急にヒカルの歌を聴いてみたいと思った。


話題がなくて振ったのではなく、本心でこのコの歌声を聴いてみたいと思い、思わず出てしまった言葉だった。


「あっ、じゃあ、リクエスト何かあります?」

「そうだなぁ、最近はやりの曲はよくわからないから、今ライブでやってる曲の中からなんか唄ってよ、椎名林檎でもいいよ」


「あ、はい、わかりました」


そういってスッと立ち上がったヒカルのスレンダーな足に思わず目がいってしまった。

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