悲劇の村②
「べ、ベネット! これはちがっ」
「おんにゃー? あれは確か・・・そーだ、ドラグニアちゃんのお友達のー、ささっ早いとこ殺っちゃわないと、怒ってるみたいよ? あのクソドリアード人」
「貴様!」
「ドラグニア! お前、だ、ダマしたの・・・か?」
「ち、違うんだベネット! 俺は、こんな事になるなんて、知らなくて」
いくら頭に浮かんだ言葉を精査しても、この状況下でベネットを納得させられるものなんて出てくるわけもなく、
ドラグニアは唯々言い訳がましい言葉を口にしていた。
「お前が! お前の事を信じたばっかりに、俺は・・・俺達の村は!」
そういうなり、ベネットはドラグニア目がけて突っ込んできた。
「ベネット! やめっ!」
その瞬間、後ろでニヤニヤしながら眺めていたザミエルがスッと手を上に上げた。
ヒュッ! ドスッ!
「あっ、あっ、うあー!!」
ザミエルが手を挙げた瞬間、どこからともなく飛んできた一本の鋭い矢が、ベネットの心臓に命中した。
「べ・・・ベネット!!」
ドラグニアは、すぐさま倒れたベネットの元に駆け寄ると、頭を抱きかかえ傷口を手で覆った。
「あっ・・・かっ・・・ドラ、グニア」
「ベネット! しゃべるな! ああ何で!」
「ドラ、グニア・・・聞いてくれ、お前の忠告を聞いてから、俺はすぐに女子供だけは、村の外に、逃がした、だ、だから頼む! む、娘を」
「わ、分かった! エルサだな? 何があっても必ず救って見せる! だからお前もう喋るな! ほら直ぐに救護班をまわして」
「あ、りがとう、疑って・・・悪かった、な、後はたのん、だ」
ベネットは・・・最後にそう言うと静かに目を閉じた。
「う・・・うあー! ベネット? ほら何目ぇつぶってんだよ、起きろよ・・・おき」
「あっ、お別れはーもういいかな? そろそろドラグニアちゃんも仕事に戻ってもらわないと♪ 折角村を襲えるっていうから楽しみにしてたのにー、
どっかの反逆者から情報が洩れてたのか、村に女がひっとりもいなくてさぁ、もう汚いじじい達殺すのにも飽きちゃったんだよねー♪ だからホラッ、さっさと女共の居所吐けや」
「ザミエルネロ・・・てめぇ、生きてこの村から出られると思うなよ? 俺を怒らせたんだ、お前も、お前の部隊も、誰一人として生きては返さねぇよ」
「おいおいおいおい! お前何言っちゃってんの? お前如きがそんな口聞いて許されると思ってんのかぁ? そもそもお前が命令に背いて村人逃がそうとしてたのは分かり切ってんだよ!
此処が終わったらお前は反逆者として家族共々ギロチン台行きなんだよ? 分かるか? お前は負けたんだ! この俺様にまけた」
瞬間、ドラグニアの剣線が揺らめき、ザミエルの左手の肘から先を吹き飛ばした。
「ぐっ! がぁ! てめぇ! なんて事っ! 死ねぇ!」
ザミエルは、先ほどベネットを殺したのと同じように、残った右手を垂直に上げて見せた、だがいくら手を上げようとも、一向に弓矢が飛んでくる事は無かった。
「えっ? な、なんで? はっ?」
ドサッ!
ザミエルは状況が理解できず呆然としていたが、突然背後から何かが落ちる様な音が聞こえ振り向いた。
「少将どの、このくらいで良いですか?」
「・・・あぁ、よくやった」
「んな! なんでお前ら!」
ザミエルが後ろへ振り向くと、そこにはドラグニアを狙うべく民家の屋根に潜ませていた弓兵達の首が転がっていた。
「ヒッ!?」
「・・・あのなザミエル、なんで俺の部隊がこの国境の戦線を任せられてるか分かるか?」
「えっ・・・わ、わか」
ザミエルが言いかけた瞬間、ドラグニアは剣を大きく横に払いザミエルの首と胴体を綺麗に切り離した。
「誰よりも強く、そして誰よりも敵に残酷だからだ」
ゆらゆらと揺らめく炎に包まれる中冷たく言い放つと、ドラグニアはザミエルには一瞥もくれず部隊員たちに向き直った。
「全部隊に告げる! 敵軍殲滅後、我々はこの場所にて火葬を行う・・・助ける事が出来なかった友人たちに・・・せめて墓だけでも・・・すまない」
ドラグニアはその場に崩れ落ちると、肩を震わせて号泣した。
「はっ! 確かにご命令聞き届けました! 全部隊! とりかかれ!」
「はっ!」
そう言うと、部隊は一斉に散り散りになった。
「・・・友よ・・・すまない」
ドラグニアの独り言は、燃え盛る炎に焼かれ静かに消えていった。
満天に輝いていたはずの星空も、強すぎる炎の明かりに照らされ、空には唯々永遠の様に長い漆黒の世界が広がっていた。
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