エルサドル公国①
「ここから先がエルサドルです」
エルサはそういうと、四方見渡す限りにそびえたつ高さ5メートル以上はあるレンガの壁をコンコンと軽く叩いて見せた、蒼星はサスエルの町から20分ほど歩いた場所にこんな大きな人工物が建造されていることに驚いたが、
同時に戦争が終わってもこのような壁の建設を余儀なくされるほどに、未だ両国には深い溝があることに不安を覚えた。
「えっ、こんなのどうやって」
「ふふっ、蒼星は国外に出たことがないの? 普通によ、普通に」
エルサはそういうと、少し離れたところに見える木製の門の様なものを指さして見せた、そこには赤い色のローブを纏い槍のようなものを構えた兵士が2名立っており、前には入国希望者なのか長い行列ができていた。
「はい、入国の目的と期間は?」
「えっと、あ、あの、さ、さいとしーんぐ?」
「・・・はい? 真面目に答えなさい、入国させないぞ」
「えっと、その、ビ、ビジネスデス」
「貴様先ほどから何をいっているのだ! 怪しいな、荷物の検査をする! 両手を挙げて後ろに回せ!」
蒼星は言われるがままに両手を上に上げると、兵士に荷物を奪われ中身をすべてひっくり返された。
えー、そんなん先言ってくださいよー、こちとら純粋純血の日本男児デスヨ? 生まれてこの方海外なんておろか飛行機すらも乗った事ないんですよ?
最大の遠出は夏に行く祖母の家なんデスヨ? エルサー、助けてー。
蒼星が挙動不審にエルサを探すと、彼女は既に壁の向こうにいて、知り合いなのか行商の男と楽しそうに談笑していた。
あんのクソ〇ッチが!。
「え、これって・・・もしかしてあなたは、死刑執行人ですか?」
蒼星の手荷物という名の恥部を凌辱していた兵士が、ふと手を止め蒼星に確認した、男の手には普段業務の時にローブに付けているバッジがあった。
「え、はい、そうですけど」
「こ、これは申し訳ございません! 執行人様にこのような行い、お許しください!」
そういうと兵士達は蒼星に向かって跪いて見せ、先ほどまで蒼星を怪しんでいた役人も物凄い勢いで頭を下げていた。
「わ、わかってくれれば良いんですってー、そんな気にしないで」
あれ持ってきてよかったー! 本当は出発の時邪魔だからって置いていこうとしたのを、リゲルに必要になるかもしれないからって無理やり鞄に詰め込まれたんだよね、ありがとう! リゲルお母さん。
それにしても、執行人というのは他国の人間にとっても特別な者なのだろうか、それともエルサドルにも同じような執行人がいて、同じ様な業務を行っているのだろうか、この世界に来てもうすぐ2か月が経とうとしてるが、少しずつ分かる部分も増えてるとはいえ、まだまだ知らない事だらけの状態だ。
ていうかそもそも俺はいつまでこの世界にいるんだろう、あのクソ女神は俺に『彼女を救ってくれ』と言っていた、そのクソ迷惑な女のせいで俺はこの世界でこんな仕事に就かされている、
だが女神テミスはあれから何にも音沙汰が無い状態で、そもそもその『俺を選んだ女の子』は俺が此処に来てから出会った人間の中に居るのだろうか、執行課にも何人か女性はいるがその中の一人とか? それとも役所の下の階にいる受付のお姉さん? それとも最早お母さんみたいだからリゲル?。
「それとも・・・ラナ?」
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