妖精の優しさ
「・・・あのー」
「・・・・・」
「えっとあの、ラナ・・・さん?」
「・・・・・・」
【魔人】との対面を終え一呼吸つき、蒼星が謹慎を食らっていたせいで心配をかけてしまったもう一人の人物に会いに向かったは良いが、彼女は明らかに蒼星が居る事に気が付いているのにも関わらず、微動だにせず足組みした状態で、蒼星に背を向けたままいっこうに振り向こうとしない。
あれ? つい今さっきもこんな状況になった様な・・・デジャブ・・・いや、もしかしたら俺が知らぬ間に死に戻ってる可能性があるのでは? 仮にそうなら実は俺はもう一回死んでいて、ここはまだラナと俺が知り合う前の世界!?
「・・・・・で? 何か弁解の余地はあるのかな? 蒼星君」
呆れるくらいに現実だった・・・。
「はい、いや、その、色々ありまして・・・その、ごめん」
「・・・・はぁ」
ラナは組み直した足をほどき、少し考え込むような表情を見せると一歩ずつゆっくり蒼星の方に歩み寄り、蒼星の頬にそっと触れ・・・。
「え・・・・イッ! イッッテ! ちょっ、やめッ!」
めちゃめちゃにつねった。
「ぷっ・・・・プクッ・・・ぷはっ!」
ラナは蒼星の顔をつねったまま、たまらず吹き出すと、そのままほんの少しだけ瞳を潤わせ悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
「もーしょうがないなー蒼星くんは、良いよ! 許したげるっ♪」
そう言うとラナはつねっていた手を離し「ごめんねー」と優しく蒼星の頬を撫でた。
「ふ、普通に痛かったし」
「ごめんごめん♪」
あまりのこっ恥ずかしさに、蒼星が目をそらして愚痴を垂れると、ラナはまるで子供をあやしているかの様に、優しい笑みを返して来た。
「いや、その・・・俺こそごめん、心配かけた・・・」
「ふふーん♪ 分かればよしっ!」
ラナは満足そうに笑うと、ウンウンと頷いた。
蒼星がここで働きだしてから2週間の間、昼休みや仕事中など、蒼星は隙を見つけてはここに顔を出し、ラナに現実世界での話やこの世界であった出来事について話していた。
そんな飼い犬の様に毎日クンクン尻尾を振っていたヤツが突然現れなくなったら、そりゃ誰でも不安に思う事だろう・・・だからもうホントこの多すぎるスキンシップとか手とかほっぺとかやめて!? 勘違いしちゃうからね!? 好きが高じすぎて趣味「ラナにつねられる」とかになりかねないから!
・・・酷い変態だった。
「それで? 今日はどうしたのかな、蒼星君」
ラナはその場にしゃがみこむと、蒼星にも座る様うながし「まかせなさい!」とばかりに胸のあたりをポンッと叩いた。
もう本当この人は・・・かなわないなって。
「うん、それで今日は・・・」
蒼星は謹慎に至った出来事、今日起こった事と見た物ついて話した。
本来執行人が他人に囚人の情報を漏らすなどあってはならない事なのだろうが、蒼星はそんな規則よりもラナの前で正直でありたいと、事の全てを打ち明け・・・【魔人】に関して、蒼星がどうしたいのかを伝えた。
ラナは時折涙を拭う仕草を見せながら、真剣な面持ちで話しを聞き、最後には蒼星の頭に手を置いて「よく頑張ったね、それで良いと思う」と優しく言った。
気が付くと蒼星の瞳からは、大粒の涙がポタポタと音を立てて落ち、乾いた石造りの地面の色を静かに変えていた。
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