死刑執行人


リゲルが重々しい鉄の扉を開けるとだだっ広い空間があり、その先には石造りの回廊が真っ直ぐ伸びていた、薄暗い明かりに照らされていくつもの鉄格子がギラギラと光っており、そこは蒼星が今まで感じたことが無い異様な雰囲気を醸し出していた。


「ここが、ドリアード内にただ一つだけ存在する死刑囚のみを収監している監獄・・・エウレーネ、この牢屋一つ一つに収監されている囚人は、全て死刑が確定しここで己の死を只待つだけの生活をしている・・・そしてここが、これから俺たちが何十年とかけて様々な死刑囚達と対峙していく、俺たちの仕事場だ」


先ほどまで一緒に軽口を叩いていたリゲルの真剣な面持ちに、蒼星は思わず息を飲んだ。


「うん、それで良いよ、初めはみんな緊張する、それに彼らはみんな何とかして助かろうと一生懸命に僕たちの同情を引こうとするからね、それでも僕たちはしっかりと真実を見極め、彼らへの判決が妥当なものなのか判断しなきゃいけない」

「えっ・・・それじゃあ俺たちの仕事って」

「あぁ、僕たちは死刑判決が決まった囚人の死刑執行の際、本当に囚人が犯した罪が死刑に値するものなのかを見極め、死刑執行の判決書にサインをするのが仕事だよ」


リゲルは少し悲しそうな、だがしっかりとした口調で蒼星の目を見てそう言った。

いやいや、よく考えてみろ俺にそんな事出来るわけないだろ・・・俺は今までの人生何にもやってこなかったんだよ、何かに熱中した事も一生懸命になった事もほとんどなくて、趣味もほとんどなければ友達もいない、そんな人間が他人の人生を決める? もし俺が逆の立場だったら絶対そんな奴にだけは決められたくない、でもだったら俺はどうすれば良いんだ、リゲルに頭を下げて今すぐこの仕事を辞めさせてもらうか? いやでもそれじゃああのテミスとか言うクソガキは納得しないだろう、それにこの仕事を辞めて身よりも金も持っていない俺がこの世界でどうやって生きていくんだ・・・クソッ考えがまとまんねー。


「セイト何してる、早く行くぞ?」

「あ、あー、わかった」


蒼星が考え込んでいると、リゲルは蒼星が混乱しているのを悟ったのか促すようにポンッと軽く背中を叩いた。

はぁ、答えなんて全く出ないけど、確かに今どうこう悩んだ所でどうにかなるわけでもねーだろこんなん・・・よし、とりあえずはこいつについて仕事を覚えて、この世界の事もちゃんと学んで、それからでも遅くないだろ決めるのは。

蒼星は少し居住まいを正すと、前をいくリゲルの後ろをゆっくりと歩き出した。


「・・・ここだ」


どこまで続いているのかも分からないほど長い回廊を歩いていると、リゲルは一つの牢獄の前でゆっくりと立ち止まり、脇に抱えた資料を開いた。


「1098番 ヘンリー・スミス」

「おやおや、これは執行官さんじゃないですか、ごきげんよう」


リゲルが番号と名前を呼ぶと、牢獄の奥から一人の中年男性が姿を現した、男性は綺麗な金髪をなびかせ、きちんと整えられた髭に艶々の肌は、とても死刑囚の様には見えず、囚人服を除けば、蒼星が頭の中で描いている英国貴族そのものだった。

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