法治国家ドリアード ②

「えっ・・・」

「それじゃあ、行こうか!」


そう言うと、男はくるりと反転し蒼星の前をスタスタと歩き出した。

あぁ、もう本当なんと言いますか・・・本当なんだかなぁって感じだよね、はい。

男は二階のロビーを速足で抜けると、さらに上に繋がる階段を上り一番奥にある仰々しい木の扉をゆっくりと開いた。


「やぁ、みんなおまたせー、この子が今日から新しく仲間に加わるセイト・ユサくんだよー」

「あ、アイビスさん!! こんな時間までどこで何やってたんですかー! 見てくださいこの書類の山を!」


扉を開けた途端、蒼星と同じ年代ぐらいの金髪碧眼の青年がアイビスに突っかかる様に近づくと、デスクの上に山になっている書類を指さした。


「リ、リゲルー、大丈夫だよー、だって僕は今日新人研修なんだよ? という事は普段の仕事は誰か他の人が」

「や、り、ま、せ、ん! そんなの当たり前でしょ!? 新人研修やりながら普段の仕事もこなすのが上司の務めでしょうよ!」

「え、そ、そうなのー? えー! リゲルくーん、助けてー!」

「絶対ダメです! 自分で頑張ってください!」

「え、えー!? そんなー」


アイビスはあからさまにうなだれるそぶりを見せると、暫く考え込んでからチラっと蒼星の方を見た。


「んー、じゃあ・・・カストルリゲル君!」

「え? はい・・・」

「現場に入ってそろそろ一年だよね? それじゃあ今回の新人研修は、君に一任する! 部長命令だよ?」

「え・・・えー!?」

「うん! それじゃあよろしくねリゲル! 僕は資料整理で忙しいからあとは二人でしっかりやるように! セイトくんも先輩からしっかり学ぶんだよ?」

「は・・・はぁ」

「最低だこの人!」


リゲルは呆れ顔でそう言うと、こめかみに手を当てて深いため息をついた。

いや、まー本当なんて言いますか・・・心中お察しします、はい。


「まー、あれで仕事は出来る人なんだよ本当、だから余計たちが悪いっていうか、憎めないって言うか」

「あー、そうなんですかー、うーん、本当大変なんですね、リゲルさん」


沢山の資料を小脇に抱え、元居た建物から別の塔へ続く渡り廊下を歩きながらリゲルは何かを諦めた様に言った。


「まーね、っていうか良いよ敬語なんて、俺もまだ入ってから一年だし見たとこ年齢も同じくらいだろ?」

「あ、あー、じゃあそう・・・だね、よろしくお願いしますリゲル! 俺は今年で17になるよ」

「おー! じゃあ本当に同い年じゃないか! いやここの人はほとんど20歳越えてるから俺も同僚ができてうれしいよ! そういえば蒼星はいつから見える様になったの?」

「えっ、あー、何が?」

「いやアレだよアレっ! うちの部署にスカウトされたって事は見えるんでしょ? 俺は5歳の時から見えてたから初めは怖くてさー、病院とか行って見えちゃった日はよく夜寝れなくなってたなーと思ってさ」


え、何言ってるのこの人? 見える? 何が? 幽霊か何か? そんなもん見えるわけねーだろ・・・いやでもこの話の流れからして見えないとか言ったらダメなんだろきっと。


「あ、あー! アレねー! 俺は割と最近なんだよねっ、ここ2年ぐらいかな? いやでも確かに子供の時からアレ見えたらキツいよな絶対」


蒼星はなんのことか全くわかっていなかったが、前後の文脈から何か怖いものを見る能力? みたいなものだと判断して即座に話を合わせた。


「2年かー、そしたらまだあんまり慣れてなくて制御できてないよなきっと・・・だとしたら結構キツイかもしれないよ? ここは」

「えっ?」


リゲルは立ち止まり目の前にある仰々しい金属の扉に手を当てた・・・扉には『死刑囚収監 エウレーネ塔』と書かれていた。

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