事なかれ主義の主張①
「愛」人はよくその言葉を口にする。
テレビの中で、漫画の中で、小説の中で、映画の中で、道端で。
その言葉の表すものは、いつだってキラキラと輝いていて、一つの例外も無く尊いものなのだと、そう描かれている。
でも俺はその言葉を聞くたびに一つ思う事がある、それってつまり・・・「生存本能」なんじゃね?
いや、まぁもちろん愛の形はたくさんあるだろう、家族愛に、友愛、親愛などもそうだ、でも一般的に【愛】と言われて一番に思い浮かぶのは、やはり異性に対して抱く「恋愛感情」の事を指すのではないだろうか。
だとしたら、その感情の根源にあるのはすべての人間が生まれながらに持っている『子孫を繁栄し、より多く、より長く自らの遺伝子を紡いでいく』という生存本能なんじゃないだろうか。
えーっと、つまり何が言いたいかというと、授業中にわざと大きな声で冗談を言って注目を浴びるのも、部活で女子マネに良いとこ見せようとして、試合の時だけ普段より頑張っちゃうのも、やっとの思いで聞いた女子とのラインのやり取りで全く興味が無い話題なのにさも興味深々だぜ俺マジ卍みたいに振舞っちゃうのも、全ては俺と〇ッチして最高にいけてるベイビー作ろうぜってアピールなわけで、しいては佐藤さんと鈴木さんマジぱねぇぜって思うわけなんですはい。
本当自分でもなんでこんなみんな当たり前に受け入れてる事でモヤモヤ考えてるんだって感じなんだけど、でもその当たり前の事がどうしても・・・。
「納得できねぇ」
「ん? なんか言った? それよりセトちん見てよこの髪色! これなら俺もイケっかな」
モヤモヤと頭の中で考えていると、目の前でなんか見たことのある風貌の真っ青な髪色の男子が、決め顔でこっちをみながら問いかけてきた、確かこいつは同じクラスでいつも昼を一緒に食べてる、た、たか・・・なんだっけ?
「おっすー、どうしたタカいきなりそんな、イメチェン?」
「ぶはっ! セトちんマジウケんだけど! 何よタカって、苗字短くすんなっつーの! ユウジで良いよユウジでー、みんなそう呼ぶし! つーかそれよりもっ! イケっかな!この色!」
っぶね! 危うく名前間違えるとこだったー! 高三の夏前に毎日一緒に昼飯食ってるやつの名前間違えるとか危険すぎるだろ俺、危うく明日からちょっと早めの自由登校期間に入らなきゃいけなくなるとこだった。
「ごめんごめん! ユウジっ! いや、良いなその色! めちゃくちゃオシャレじゃん! それなら絶対イケんよ!」
「マジか! いやー、やっぱセトちんはわかってんねー! なんかちょっと自信付いたわー! サンキュね!」
そういうと、タカ・・・ユウジは颯爽と自分達の教室に向かって走っていった。
いや、つーかなんだよイケっかなって、お前はその髪でどこに行っちゃうんだよ、仲間を探そうにも地毛でその髪色の人種は恐らく世界中探しても見つからないと思いますよ? そもそも呼び方おかしいのはお前もだろうが、俺の名前は遊佐ゆさ 蒼星せいとなんだよ、『い』を抜くな『い』を! 万が一そのあだ名が広まっちゃったら、最悪名前を瀬戸さんに改名しなきゃいけなくなるかもしれないだろ、どうも皆さんこんにちは、瀬戸蒼星です! って野比のび太か俺は。
「あ、せーとだー」
ユウジとのやりとりで若干イライラしていると、後ろからものすごく甘ったるい声で話しかけられた。
今度はなんだと振り向くと、そこには蒼星より少し背の低い中性的な顔立ちの少年が立っていた、彼もユウジ同様にいつも昼食を共にしている自称ゆめかわ男子のイタル君だ、ちなみに苗字は知らないしプライベートで遊んだことは一度もないね!
「よーっす、今日も元気良いな! イタル君!」
「イタルで良いよイタルでー! もうっいつまで経っても他人行儀だなーせーとはー、ねねっそれよりどう? 今日のボク! 可愛いかな?」
イタルはそういうと蒼星の前でくるりと一周回って見せた。
いや、というより正直いつもと何が違うのか全く分からんのだが、そもそもココ学校だし! 全校生徒一人残らず制服ですよね? ていうかなんだよその質問! お前はテンプレ学園ラブコメの幼馴染ヒロインか!
「おー! 良いじゃんそれ! めちゃくちゃ可愛い! 俺はイタルに似合ってると思うよ」
どれだけ目を凝らして見ても、彼が普段とどこが違うのか見当もつかず、蒼星は強引に乗り切ろうとあえてイタルの問いに乗っかってみた。
「えへへー、本当? さっすがせーと! よく僕の靴下が新しいってわかったね!」
いやわかるかボケ! そんな違いお母さんでも気付かんぞ普通! 俺はどんだけお前の足元凝視してなきゃいけないのよ、むしろ怖いだろそんな友達、もし自分が気づかれたらとりあえずラインブロックしてツイッターのフォローも解除した上で、次の日から黒の無地靴下オンリーで生きていくまである。
「あ、あたりまえじゃん! やっぱ制服の黒にはそのくらい派手な感じが合うよなー」
えっと・・・何言ってんだろ俺。
「おー!確かにそうかもー! それじゃあ自信ついたし、今日も一日カワイイ女子達に囲まれて可愛がられてこー!」
そういうと、イタルは手を大袈裟にブンブン振りながら、スキップでクラスの目立つ女子グループの輪の中に収まった。
「あぁ、そーだなー、そりゃ本当・・・最高だ」
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