現場100回
我が学校で、殺人事件が起きてしまった。被害者は生徒。殺害場所は校舎内一階の男子トイレ。加害者、凶器は共に不明。全生徒は自宅待機となり、学校周辺には報道陣がこれでもかというほどに列を生している。
高等学校で殺人事件。
あまりにもファンタジーめいた出来事だ。話題性は、他の比ではないだろう。おかげで、我が家ではテレビを視聴しようとする人がいなくなった。SNSで回ってくるニュースにすら、わずかばかりにも抵抗がある。
そして。
俺は今、自宅を抜け出し学校の側にある穴場的カフェで如月と密会をしていた。
「誰に説明してるんですか?」
「脳内整理だよ」
「やっぱり、北斗さんは面白いですね」
目を細める笑い方は、なんだか悪意を感じられる。とはいえ、こんな会話をしている場合ではない。見つかってしまえば、マスメディアの格好の餌だ。
「さて、それでは私たちの学校へ向かいましょうか」
彼女はカップに入っているコーヒーを全て飲み干すと、やおらに立ち上がった。それにつられて立ち上がるも、乗り気ではない俺は最終確認をする。
「正気かよ」
「私を正気ではないとしたら、北斗さんも正気ではありませんよ」
否定は出来ない。
「それにほら。昔から、現場100回というでしょう」
「仮にも一般人が現場に100回も行くのは迷惑極まりないんじゃないだろうか。多分アレだろ、犯人は現場に戻ってくるとか、そういう」
「えぇ、そう。それです」
「犯人と鉢合わせるぞ」
「近づかなければ、思考は読めませんから」
「俺は必要なくないですか?」
彼女は顎に手を当てて数秒ほど考えた後、確かにといった様子で目を見開いた。
「それはそうかもしれないですけど、いざとなったら助けてください」
「無茶言うな。大体、お前がそんなことをする必要なんてどこにもないだろ」
すると彼女は、それもそうなんですけどねと口元だけで主張した。それでもやろうと言うのか。目線でそう問いかけると、彼女はあろうことか髪の毛を掻き上げた。ふぁさり。髪の毛が広がっては落ちていく。
「私、学校が好きなんですよ」
大勢の人間から忌避されている彼女の口からそんな言葉が出てくると思わず、俺は面食らった。しかし、彼女の目は至って真剣である。こんな顔をした人間に嘘をつかれたくはないなと思いつつ、頭を掻いた。
「……そりゃ、何よりだよ」
「それじゃあ、行きましょうか」
颯爽と歩き始める彼女の後を追う。ここから現場へ行くのが凶と出るか、吉と出るか。それは神のみぞ知る。
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