第9話 「不審なメールは簡単に開けないようにしましょう」

「なんだ? メール?」


 ドリームフォンに届いたのはメールだった。おそらく、通信機能を開放したから届いたのだろう。

 簡素なホーム画面から、封筒のアイコンにタッチすると中身が開く。

 

_____________________________________


 件  名:10連ダイヤガチャの【オマケ】ガチャについて

 差出人:*%!〇;}†☆+

 本  文:この度は10連ダイヤガチャのご購入、誠にありがとうございます。

      本メールでは、10連ダイヤガチャに付属しておりますオマケガチャ

      についてのご説明をさせていただきます。

     オマケガチャでは、他のガチャで入手不可能なレジェンドレアを含んだ

      全てのレアリティから抽選が行われます。

      本メール受信と共に、ドリームガチャアプリメニューが更新されます。

     ドリームガチャアプリからオマケガチャページへ移動してください。


      ※10連ダイヤガチャを1回ご購入される毎にオマケガチャ1回となっ

      ております。      

      ※本メールの文章はレジェンドレアの確実な入手を保障するものではあ

       りません。


      探索者の皆様の今後益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。


                    *%!〇;}†☆+より 愛を込めて


______________________________________



 何このメール、怖いんだけど。

 なんなんだよ、この文字化け野郎は。コイツがガチャの胴元か?


「この文字化けは確か前にも見たな……。えぇと、コイツが妨害しているせいで、探索者に無償で武器や能力を与えられないって文章だったはずだ」


 そんな奴がこんなメールを送ってくるとは。金儲けでもしたいのか?


 いや、そんな些事はどうでもいい。


「レジェンドレアの入手方法がわかった」


 オマケガチャからでしか入手できないとは。10連ダイヤガチャの本命はこちらだったか。

 1千万dp毎に1回、レジェンドレア入手のチャンスがあるという事だ。

 どんな物が出てくるかはわからないが、伝説レジェンドと名づけるくらいだ。相当な代物だと推測できる。


「早速、引いてみるか」


 ホーム画面に戻ってから、ドリームガチャのアプリを再び起動する。

 確かに。

 銅、銀、金、10連ダイヤガチャの更に下に、新たなオマケガチャという項目が増えていた。

 

 引くとするか。頼むぞ、僕のリアルラック。


 オマケガチャをタップすると画面が切り替わり、黄金に輝く星が表示された。

 ≪TOUCH≫の文字を押す。

 星が縦に、ギザギザに割れていき、まばゆい光が放たれる!


 そこに現れたのは……。


 黒い星が2つ。


 ポンっという音と共に僕の隣に現れたのは。


 赤色の輝くボディを持つ、スクーターだった。


「……は?」


 慌てて画面に目を戻す。黒い星が2つなら、レア度は……。


  rank   プラチナ(★★)

category  その他

  name  魔法の馬≪バヤール≫


 もう一度、≪バヤール≫という名前であろうスクーターに目を戻す。

 うん、赤いスクーターだな。どう見ても馬には見えない。ついでにプラチナレアの価値がありそうにも見えない。ただのスクーターにしか見えない。

 

 うん。

 うん。はい。

 いやー、そっかー。プラチナレアかー惜しかったなー、もう1つランク上ならレジェンドだったのになー。

 はっはっは。こりゃ参ったね、はっはっは。

 はっはっはっはっは。

 …………。

 ……。 

 …。


「舐めとんのかいっ!? プラチナレアなら、なんかこう、もっとこう、凄い物とか出てくるんじゃないのかよ!? スクーターかよ!? しかも魔法の馬ってなんだよ! 馬じゃないよ、スクーターだよコレ!」


 ぜいぜいと息を切らす。

 くそ、無駄に叫んでしまった。なんだかこの世界に来てから情緒不安定になっている気がする。


「あぁ、待て。落ち着け。見た目はただのスクーターでも実は凄い効果とかあるのかもしれない」


 声に出し、自分に言い聞かせる。

 残念ながらレジェンドレアでこそなかったが、それでもプラチナレアなんだ。

 ≪バヤール≫という名前には覚えが無い。何か由来のあるものなのだろうか。

 

「どうでもいいけど。普段、自分が仕事をしている机の横にスクーターがあるのって違和感どころの話じゃないな」


 呟きながら≪バヤール≫に近づき、何気なくそのハンドルに触れてみる。

 すると。

 ドルン、と鈍い音を立ててエンジンがかかった。

 勝手に。


「え、何。怖いんだけど」


 乗れ、という事だろうか。

 ここ室内なんだけど。


 試しにシートに跨ってみる。軽くハンドルを握ると……。

 前方の、大きな窓にむかって勢いよく動き出した。

 勝手に。


「うぉぉぉぉぉ!?」


 あ、ブレーキが効かない。

 ……死んだわコレ。


 そのまま真っ直ぐに窓を突き破った僕と≪バヤール≫は。

 空を、舞っていた。




*****




 ?????のナイトメア☆ガゼット


 第9回 『謎の文字化けの人物』


 敵か味方かすらわからない謎の人物。少なくともこの悪夢の世界について深く関わっている様子。

 この人物については、より詳細な続報をお待ちいただきたい。


 ……危険な香りがするわ。あの白い人影なんかよりも、ダンチにね。

 怖~い悪魔ですらも恐れ慄くような、そんな邪悪を感じるわ。まぁ、ただの女の勘なのだけれどね。

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