世界の中心で全裸で歌うアホ

シロクマKun

第1話 アホとの遭遇


 あ……ども。ん、これ読むんすか? 

 え〜私〇〇は……へ?

 ああ、自分の名前入れんのか。えー、私、ミヤザワヒロシは、嘘、偽りない証言をする事を誓います、と。いいスカ、こんで?


 はいはい、……はい、最初っからかぁ。めっちゃ長いッスよ?

 ……はい……。えーっと、全ての始まりはね、俺が1人の男と出おうた事がキッカケやったんすよ。やから、そっからになりますけど、ええですかね?

はい。んじゃ、そっから。


 俺が一番最初にアイツと会ったんは、9月の終わりのへんやったと。……去年ッスね。意外とそんな長ないんすよねぇ。だから、俺、今だにアイツの苗字知らんしねww。アイツも俺の苗字知らんと思うけど。つか、アイツの場合、ヒロシって名前すら覚えてない可能性あるからねw。ホンマ、アホやからw。


 んでまぁ、その9月の金曜の夜やったかな? あの流行らんかったヤツの日やったから。ナントカフライデー? 何やったっけ? へ、? ハナキン? 

なんスカ、それ? ハッピーフライデー……やなくて……ブレミアムフライデーか! まあ俺、学生やったから大して関係ないけどw。


 すっごい満月が綺麗な夜でね。

 ブラブラとナンバの辺り歩いてたんすね。ギター持って。

 あ、俺はバンドとかやってなかったす。ただ好きってだけで。


 行くアテとか、目的とか、特に無かったんすよ。田舎から出て来たばっかやったんで。夜の繁華街歩くだけで何かワクワクで。 

 あの、有名な大っきい橋、あるじゃないスカ? あの辺で、ちょっと人だかりできてて、いや、そんな多くないすね。10人ないくらいかな? 

 近寄ってみたら、ストリートパフォーマンスですか? 誰かが演奏してたんすよ。 


 それがアイツやったんすね。 


 ええ、1人でやってましたね。

 ギターとハーモニカだけで。演奏自体、下手ではないけど、めっちゃ上手いって事もなかったすね。ただ、何かエライ熱量ってか、迫力あって。

 声がまたね、ええ声で響くんすよ。いや、物理的にもすけど、精神的に? つーかね。……タマシイ的に? 


 そんで、聞いてる内に堪らんよーになって、俺もケースからギター出して、

アイツに「入ってええか?」って目で聞いたんすね。

 んじゃ、アイツも「ええで」って顔したんで、俺も演りだしたんす。


 アイツ、オリジナルの曲で、コッチは合わせよーとしたんやけど、アイツは合わせる気ぃなんか全然なくて。ホンマ、好きなよーに演ってるんすわ。

 なんやねん、コイツ⁉ とか思て、だんだん合わせに行くのがアホらしなって、もうアイツに負けへんよーに、競うよーに演りだしたんす。


 そしたら逆にそっちの方が合いだして、だんだんノッてきて。

 あんなん初めてやったね。スッゴイシンクロしてるよーな感じ。

 頭が真っ白になって、周りとか全然見えんよーになって、音だけが響いてるよーな。


 ふっと我に返ったらね、なんか周り中、人だらけになっとって。なんかみんな、むっちゃ盛り上がっててて。それが俺らのパフォーマンスのせいやと最初わからんでね。なんか分からんけど、もっと行けーって感じになって。


 そん時すわ。いきなり地面が光だして。え、なに?、て思てる間に魔法陣が現れて。 

 ……いや、魔法瓶やなくて、魔法陣。

 知りません? ようマンガとかで魔法出す時に、円のなかに変な文字とか書かれてるヤツ。それが出て来て……。


 ちよ、ええ声で怒鳴らんとってくださいよ、刑事さん、顔怖いから。

 いや、だから宣誓もしたでしょ? ホンマの事やからしゃーないですやん?

 つか、まだこの段階でツッコんどったら、この先大変やと思いますよ?


 いいすか?、先行って?

 そんで、その魔法陣から光がブワーっと出て、目の前が真っ白になって、

気ぃ付いたら、草原みたいなトコにおって。人がみんないぃひんよーになって、俺とアイツだけで。しかもね、夜やったんが、昼間になっとるし。


 いや、せやから変な薬とかやってませんって。調べたっしょ?


 で、アイツと顔見合わせて。パニくるより、ぼーぜんとしてましたわ。

 そこ、なんか小高い丘みたいなトコで。わりと遠くまで見えたんすけど、延々森とか、続いてるんすわ。どっち向いても山か森。あと空。人工物が何も見当たらんくて。 

 そんな景色見てアイツ、「何かええトコやなぁ」って。

 オイオイ、と。そんな感想ゆーとる場合か?、と。あぁコイツ、アホやな、ってそん時初めて思いましたね。 


 けどね、アイツその上を行ってましたわ。また演奏始めよったんすわ。

 あ、ギターはどっちも持ったままやったんすよ。ただ道に置いとったカバンとかは一緒に来てなかったすね。一緒に来てないって、旅行みたいな言い方ですけど。 


 ほんで、何かええ調子で歌うんですわ。そりゃ、ふつーに旅行行って、自然の中で歌うとか気持ちええの分かるけど、そんな状況やないからね。

 でもまぁ、俺も頭回らんし、まぁええか、と思てヤケクソで演奏して。


 確かにね、すんごい気持ちええんすよ。空気めっちゃキレーやし、空も澄み切っとるし。その内ね、周りの空気が何かキラキラ光ってるんすよ。

 ダイヤモンドダストってあるやないすか? あんな感じで、空気がキラキラしてて。俺らの演奏に合わせてね、動くんすよ。リズムっつーか、音の強弱にあわせて、みたいな。


 演奏続けてたらね、とーくの方で、何か白いのが動いてんのが見えて。

 なんやろ?と思てたら、チョットづつ近づいて来るんすよ。

 チョットこれ、マズイんちゃうの?って、アイツ見たら、アイツも気付いたみたいで。 

 おっ、客来たやん?とか抜かしてて、やっぱコイツあかんわとか思って。


 その白いのんね、馬っぽい何かなんすよ。

 馬ではないんすね。馬に角は生えてないっしょ? そいつ、タケノコの細いヤツみたいな、ドリルみたいな角が頭についてるんすわ。それにやたらデカくて。ふつーの馬の1.5倍くらい、あって。


 それが近づいてくるんやけど、不思議と怖い感じはなかったっすね。

 なんか、ビミョーに足引きずってて。足ケガしてるんかな?って思いましたね。

 相変わらず、俺らが演奏してる内に、ソイツ、すぐ近くまで来て。

 白い毛並みがね、めっちゃ神々しいんすわ。目が綺麗でね。知性を感じるんすよ。 

 俺らの演奏を、興奮するでもなく、じーっとね、聴き入ってるんすわ。

 いや、ホンマ人間より行儀よーて。

 演奏が一段落したら、またフツーに去って行きよるんですわ。

 そん時、あれっ?っと思ったんやけど、足引きずってないんすね。来る時は足悪そーやったのに、治ったんかなぁ?と。


 アイツは、また来いよーっとかゆーて。ホンマに来たらどーすんねん?って思ったら、ホンマにまた来たんすわ。しかもね、仲間いっぱい連れてきて。

 いやビックリっすわ。大きいのんやら、小さいのんやら、ね。


 あ、そうそう、あの角の生えた馬って、ユニコーンってゆーんですよね?

 それ、アイツにゆーたら、なんやそれ?うまいんか?とか。

 とんが○コーンちゃうわ、って突っ込んで。


 最初に来たヤツがね、一番デカーて威厳があるんで、ああ、コイツがボスやな?と。ほんならコイツを、ユニ兄さんって呼ぼって事になって。

 ほんでコイツらは、ユニ兄さん一家やなって。この場合の一家は、家族やなくて、組織的なヤツやね。


 で、またノリノリで演奏して、最初あんまし皆、元気なかったんすよ。 

 なんか、傷だらけのヤツとかおったし。それが段々元気になったきて。

 おとなしぃにしてたヤツラも、その辺走り回ったりして、

 ちっちゃい、多分子供がね、飛び跳ねながら擦り寄ってきたりして。 

 時間の感覚なくなるまで演りまくりましたねぇ。


 ええ加減演った時、アイツがいきなりジャンっとギター止めて、

「あー腹減ったーっ」て叫んで。俺ら、全然疲れてなかったけど、腹はむっちゃ減ってたんすわ。

 アイツ、つかつかっとユニ兄さんの目の前行って、

「なぁ、何か食いもんない?」って。

 うっわコイツ、無敵のアホやな、って思いましたわ。

 そしたらユニ兄さんが若い衆ニ頭ほど呼んで、なんか指示したみたいでね。

 その若い衆が俺らに背中向けて、チョットかがむんすわ。

 これは背中に乗れって事か?と思てる内に、アイツ、サッと乗って。

 俺も違う若い衆の背中に乗って。


 ユニ兄さんを先頭にね、ゾロゾロ歩きよるんですわ。

 草原抜けて、森の中に入っていって。森ん中はね、何か見た事ない植物とかケモノばっかりでね、ちょっと俺らに威嚇するようなケモノもおったんやけど、ユニ兄さんがめっさ睨みきかしててね、誰も手出し出来んよーなんすわ。

 多分、ユニ兄さんはこの辺のシマ、仕切ってるんやろなぁって。オーラがちゃうからね。


 そんで着いた場所は、でっかい木がでーんとあって、森の中やけど、空は見えるくらい開けてて、近くに小川も流れてて。果物とかいろいろなってて、ユニ兄さんが口でガブッと果物もいで、ポンとほってくれて。俺正直、チョット躊躇したんやけど、アイツは何のためらいもなくガブッっとやって。 

 流石、最強のアホやな、と。モチロン、褒め言葉でね。

 俺も、食ってみたらめっちゃ旨くてね。まあ、空きっ腹やった事もあって、夢中で食って。若い衆らもアチコチから果物取ってきてくれるんすよ。そんで俺らの前に果物の山ができて。 


 そこで食って、歌って、騒いで、って繰り返してたら、段々と他のケモノも集まってきてね。だいたい、ケモノの子供らはすぐ近くまで来て、子供同士でじゃれ合って、大人はチョット離れたトコで、見守ってる感じで。ホンマ、託児所状態ですわ。その辺りから俺らも気付いたんすよ。俺らが歌って演奏してってやると、空気がキラキラして、明らかに雰囲気変わるんすよね。癒やしの雰囲気ってゆーか、それが始まったら、みんなスゴイ元気になったり、チョットした傷が治ったりするんすよ。それ目当てにケモノらが集ってるようで。


 そーゆーのがね、結構続いたんすよ。3日ぐらいかなぁ?。

 ケモノは日に日に増えていって、昼間は託児所+ライブ会場みたいなノリで。

 夜はケモノモフモフしながら寝たり。スゴイ幸せでしたね。このままここで暮らすのんも悪ないなぁ、って思ったり。


 アイツはね、自分の事とか、ほとんど話たがらんかったけど、ケンジって名前と、家族と上手くいってなくて家出中ってことだけ教えてくれましたね。

 あと、アイツ、あんまりこだわりとかないアホやけど、古いギターと、ギターケースはすごく大事にしてましたね。誰かから譲り受けたってゆーてました。


 そんなある日ね、いつものごとく演奏してたら、突然空気が張り詰めたんすよ。ケモノらも警戒しだして。

 そこへ、ノシノシと現れたんが、めっちゃデカイ熊っぽいヤツすわ。

 熊ではないんすね。熊はクチバシなんか付いてないですやん?

 ソイツ、ナリは熊やけど、頭が鳥っぽいんですわ。ってフクロウみたいな感じ?

 ソイツが来た途端、動物らが、ワッと逃げ出して。残ったんは、ユニ兄さん一派だけですわ。

 ソイツが唸りながらね、俺らに近付いて来る訳っすよ。

 そん時、ユニ兄さんが颯爽と俺らの前に来て、熊モドキを威嚇してね。

 もうね、ユニ兄さんと熊モドキの間にバチバチ火花が飛んでるよーでしたわ。


 暫くそんな感じやったら、アイツがイキナリ歌い出して。

 この緊張感の中、よー歌えるな、と。お前はどこのマ○ロスやねん?と。

 もうこれ、俺もつき合わなしゃーないやん?って、俺も演奏して。


 チョットの間したらね、熊さんがくるっと背中向けて、そのまま去っていったんすわ。後でアイツが、「あれなんて熊なん?」って聞いてきたから、いや、熊ちゃうやろ?知らんけどって。ナントカベアーとかちゃう?ってゆーたら、ナントカってなんやねん?って。ほんじゃ取り敢えず、「アベさん」って呼ぶかぁ、って事になって。ベアーのアベさんね。


 で、次の日もね、来たんですわ、アベさん。

 しかも仲間引き連れて。たぶん、アベさん一派やな、って。

 またね、ライブ中、ずーっとプレッシャー掛けてくるんですわ。おかげで、ケモノのお客さんがだいぶ減りましたね。まあ、遠巻きに見てるだけでね、ちょっかいとかは掛けてこんかったすわ。


 そーゆーのが3〜4日続いたんやけど、ある日突然ね、動きがあったんす。

 俺らがライブして、ユニ兄さん一派のチビ達と、あとほかのケモノのチビ達がはしゃいでたんすけど、突然、まん丸いモコモコしたもんが転がってきて。

何かと思たら、アベさんトコのチビやったんすね。その前から入りたそーにしとったから、我慢できんよーになったんやろね。一匹が入ったらもう、残りのチビ達も入ってきて、後はもうお祭り騒ぎすわ。


 その辺からすね。アベさん一派の若い衆も近寄ってくるよーになったんわ。

でも、ボスのアベさんはまだ遠くで見てるだけなんすよ。


 そんで、とうとうアイツがアベさんの目の前まで行って、

「子供らが仲良ーしとんねんから、お前もなかよーせいっ」って、無敵のアホ炸裂ですわ。

 そしたらアベさん、くるっと背を向けてどっか行ってしもて。

 けど、暫くしたら、なんか松ぼっくりのデカイヤツみたいなん咥えて来たんすわ。それを俺らの前にでんっと置いて。蜂っぽいヤツの巢でしたわ。

 おーここにも蜂みたいなんがおって、蜂蜜みたいなモン取れんねんなー、って。そんでやっぱり、アベさんの好物なんやろなぁ、と。

 これ俺らの前に持ってきたってゆー事は、俺ら認められたんやなあって。

 つか、ユニ兄さん一派とアベさん一派を仲良ーにしてもたんは、エラいこっちゃないかなあって思いましたね。アイツ、ホンマにアホやけど、スっゴイアホやなぁって、つくづく思いましたわ。









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