現代転移物語

方 久太

第1話

チリリと囀る小鳥の鳴き声、風に吹かれて擦れる葉の音。木々の隙間からの木漏れ日は、流れる小川に反射し当たりを照らす。

そんな、人気のない森の奥には小ぢんまりとした小さな小屋がある。

木と赤みがかったレンガで造られており、壁面には蔦が這っていた。屋根の上の煙突からゆるりと煙が立ち上り、どこか香ばしい匂いが辺りを満たしている。


「おばーちゃーん!!」


タタタ、と走ってきた裸足の少女がその家に入っていく。勿論扉を閉めずに家の中へ入り、弾んだ声で祖母を呼んだ。


「おばあちゃん、おばあちゃん!見てみて、セシカの実取れたよ!こーんなに!!ジャムつくって!!」


それは家の外まで聞こえる大きな声で。


「あれれ?おばあちゃん?」


しかし少女の声以外に、物音はせず、次第に少女の声は不安げに揺れ始める。


「おばーちゃん?おーい。どこー?」


かくれんぼしてるの?

でもおばあちゃん、今日調子悪いんでしょ、大丈夫?

あ、お腹空いた!ご飯つくろーよ。

洗濯ものかわいてたよおばあちゃん、わたしだけじゃ届かないからいっしょにきて!

……わたしかくれんぼきらいなの、しってるでしょー

もうでてきて、


家からは少女の話す声が聞こえてきた。それ以外は何も。

家の外では相も変わらずささやかな鳥の声に、せせらぎに、風の音があった。

それなのに家を取り囲む雰囲気は、香ばしい、甘い匂いに掻き消されるようにただそこだけが静かだった。


それから少女は家の中から出てこなかった。


煙突の煙は風になびいて細く消え去る。



キィと音が鳴って、扉が閉まった。

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