第2話――あれ? あんな所に…
当日の日曜日……
朝からカズヤは、東京駅に向かった。
取材道具の入ったショルダーバッグを下げていた。
目的地は、例の『不思議サイト』に出ていた、無限トンネルがあるという
東京駅から、ローカル線を利用して終点まで行くという、気楽な一人旅だ。
都会の駅を後にして十分ほど経つと、景色は面白いように変化していった。
そんな状況の中で、カズヤは、たまらず駅弁を開けた。
車窓からの興味深い景色を満喫しつつ、一時間ほどで終点に到着した時、列車から降りたのは、カズヤだけだった。
駅舎を出ると、一台のタクシーが戻ったばかりという感じで止まっていた。
カズヤは、その運転手に例のトンネルのことを
運転手は苦笑しながら、
「貴方もですか……」
「僕もと言うと、いま行ってきたばかりですか?」
「いや、今じゃないけど、昨日もいたから……」
「で、行けますか?」
「えー、勿論。ここのタクシーですからね」
「じゃ、お願いします」
タクシーが走り始めると、後部席のカズヤはバッグから愛用のデジカメを出してスイッチを入れた。すると全く反応しなかった。
「えっ、どういうこと?」
すると運転手が、
「はい? お客さん、どうかしましたか?」
「あ、いえ、こっちのことです」
カズヤは、何度もスイッチを入れようとしたが、まったくダメだった。
(まいったな……。ま、そんなに遠くないし、また来ればいいか……)
デジカメをバッグに仕舞いこんだ。
すると運転手が、
「えっと……先に言っときますけどね、そのトンネルの前までは行けませんからね」
「えっ、どうしてですか?」
「以前は、ドライブコースみたいに、そのトンネルの向こうまで行けたんですけどね……。ほら、この前、関東を直撃した台風があったでしょう」
「はい……」
「あの台風で山崩れが起きて、途中の道が通行止になっちゃったんですよね……」
「あれあれ……」
やがてタクシーが止まり、カズヤは降りた。
「さー、ここまでです。あとは歩いて行ってください」
「はい分かりました、どうも……」
「帰る時、さっきの駅まで戻るんでしたら、私に電話してください。これ渡しておきます」
ケータイ番号が印刷された、一枚の名刺をくれた。
「はい分かりました。じゃ、どうも……」
タクシーは戻って行った。
カズヤは再度、トンネルを見上げたが、その時、奇妙な少女を見た。
「あれ? あんな所に少女が……?」
しかし、少女は直ぐに見えなくなった。
カズヤは首をひねるとバッグを持ち替え、獣道のような小道を登っていった。
何度か足を取られながらも、なんとか登り切ったカズヤの前に、そのトンネルはあった。ゆっくり近付いてみた。
ちょっとしたトラックなら通れそうな、少し長めの普通の古いトンネルだった。
デジカメの調子が悪いので、仕方なく外観をスマホで撮影することにした。
スマホを持ったまま一回、深呼吸すると、いよいよ中へ歩を進めた。
やがて中央あたりに来たところで、カズヤは立ち止まり、目を閉じて十回、
「ルネントンゲム」
ゆっくり目を開けてみた。
当然だが、特に変化はなかった。
さらに足を進め、トンネルの向こう側へ出てしまった。
「ほら、やっぱりガセだった……。ま、よくあるけどな……」
苦笑しながら、再度トンネルを通って元の場所まで戻った。その時、後ろから、
「ねぇ、お兄さん」
カズヤが「えっ?」と振り返ると、一人の少女がいた。
(あれ、この子、さっきの……)
「これ、なんか変なの。見てくれる?」
一台のデジカメを差し出した。
「ん? あー、いいけど……」
受け取って見てみると、あまり見たことのない機種のようだった。
「何が変なの……?」
少女の方を見ると、そこに彼女はいなかった。
「おーい! 何処へ行ったんだー!」
周りをいくら見ても、少女の姿はなかった。
「えーい、どうなってるんだ……? まったくオカシイ子だ……」
スイッチを入れると、モニターに画像が出た。
「ま、いいか……。そうだ、このデジカメで一発、撮っておこう。しかし、このデジカメ、いやに軽いな……。オモチャみたいだ……」
奇妙なデジカメでトンネルの外観を撮影した。
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