第3話 十年の想い(時系列:第1章終了時点)

①始まりの鐘

  どうしてこうも変な事件が多いのだろうか?

 これが俺の仕事だから仕方ないんだがな。


「やれやれ、またか……」

「これで3件目っすよ……」


 静まり返った道路の片隅に、朝日が差し込む。

 その眩い光に照らされ、浮かび上がるのは2つに分かれた肉片だ。

 それにしてもそうか……

 言われて気付いたが、俺たちはこの光景をもう3回も見ているのか。


「あっちの方を見てきますね!」

「あぁ、現場荒らすなよ」

「荒らさないっすよ!?」


 コイツは真面目なんだが、おっちょこちょいだ。

 何をしでかすか分からないのが、ある意味怖い。


「ふぅ……残念だが、今回も尻尾を掴めないだろうな……」

「過去の2件に関しては、共通点はないんですかい?」

「ん? あんたは……?」


 話に割り込んできたのは、40代くらいのおっさんだ。

 見たことがない顔だが、腕の腕章を見るに俺たちと同職のようだ。


「おっと、申し訳ない。俺は警備班の大久保という者だ」

「警備班? 見回り所の警備はどうした?」

「そちらの方の処罰は、後ほど必ず受けますので、どうかお許しください」


 深々と頭を下げる大久保を見つめ、俺の口から自然とため息が漏れる。

 こういうことを厳しく取り締まるのが俺の方針だが、何故か責めることができない。

 おそらく、この男が先輩の姿と重なったからだ。

 忘れもしない……俺にノウハウを教えてくれたあの人のことを……


「先……先輩!」

「ん? あぁ、何だって?」

「もうさっきの人はどっか行きましたよ! 誰だったんすか?」

「警備班らしい。何が目的か分からんが……で、そっちの方は?」

「え? やだな~、見てきただけですよ! 安心してください、何も触れてません!」

「おい……今度は何処に行く気だよ……」

 

 アイツは決して無能ではないのだが、いかんせん融通が利かない。

 はっきり言うと、この仕事には向かないのではないかとさえ思う。


「それにしても……この斬り方……素人じゃねぇ」


 刃が肉を裂くのは意外と大変だ。

 肉の繊維に沿って切らないと、引っかかって切れねぇからな。

 今までの被害者には共通点も接点もない上に、時間も場所もバラバラ……こうなると、これだけ綺麗に斬れる剣の腕を持つ者を当たるしかねぇが……絞り込めない以上、進展は期待できない。


「あぁ、くそっ……しかも厄介なことに、剣の腕が上等なのは、俺らじゃねぇか……まさか、身内を疑われねぇといけねぇなんて情けねぇ……」


 この事件は早々に解決して欲しいんだが、無理そうだ……

 くそったれ……


「何がクソなんすか?」

「いたのかよ!?」

「ちょっと、厠に行ってました!」


 緊張感がないところも、捜査には向かない。

 しかも、細身で剣術も全然だから、警備班にも向かない。

 本当にこの仕事に向いてないように思う。


「この事件自体がクソだって言ってんだよ」

「どうしてっすか!? 」

「それを正気で言ってるなら、そのうちお前も犯人になりそうで怖いんだが……」

「え?」


 コイツは察しの悪さもピカイチだ。

 一から説明しないといけないなんて、真っ平なんだが……


「いいか? 最初の事件があったのは明け方だ。場所はここから東に行ったところ。中心にある宮廷から見ると、南東の区画だ」

「斬られたのは行商人っすよね? 確か、南から来てたっていう!」

「あぁ、お陰で外交問題になるとこだったがな。まぁ、そこはあの姫さんの手腕で免れたが……」

「確か、斬り方も違ってたっすよね?」

「あぁ、今回と同じく胴体で上下に切り裂かれていたが、刃の入れ方が逆だ。今回は上から下にだったが、1つ目は下から上だった」


 そう……全てがバラバラだ。

 何1つ共通点を見出せない。


「二例目は南の区画で、中央大国の属領国家における観光人がやられた。これは心臓をひと突きだ」

「全然ちがうっすよね?」

「そして、今回は南西の区画で3件目。上下に切り裂かれていた。そして被害者だが……東国の人間だ」

「うわぁ……それってマズくないっすか?」


 それくらい、コイツにも理解できるらしい。

 そう……今回の事件は、外交上これまでにない大事件になっている。

 なのに、あの姫君は動かない……どうしてだ?

 これまでも、邪魔になった事が度々あって、"大人しくしていろ"とは思っていたが、大人しいと逆に心配になる。


「次どう動くんすか?」

「ん? あぁ……東南西と来てるから、北側に移動する可能性が高い。それに、まだ北国の人間は被害にあってないからな」

「流石っす!! 現行犯っすね!! 御用だ御用だ!」

「静かにしてろ……」


 そうだ……俺たちは、こういう危機的事態を解決するために組織されたんだ。

 必ず解決しなければならない。

 待っていろ……これ以上、この国で好き勝手させないし、被害は拡がらせない。

 俺たちがいる限りな。

 俺はギュッと拳を握りしめて、決意したのだった。

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