第6話

 ソフィーが案内された部屋はとても豪華だった。

 床も壁も、選び抜かれた白亜の大理石でできており、天井には色彩豊かな大地母神の絵画が描かれていた。

 明かりのためのシャンデリアも黄金製の豪華絢爛なモノだったが、このようなモノは、大地の乙女の心を冷ややかにするだけだった。


「大地の乙女様。

 王太子を断罪されなくてよいのですか」


 クロエが少し緊張した顔で、献策と疑問が半ばするようなニュアンスで、ソフィーに話しかけた。

 クロエも先程のソフィーの言葉を聞いており、ソフィーが王太子を生かして利用する心算なのは十分分かっていたが、それでも下劣な王太子がこれ以上ソフィーに害を与えるのを、見過ごす気になれなかったのだ。


 その相半ばするクロエの気持ちが、はっきりしない話し方に成り、表情を曇らせることになっていた。

 その気持ちはソフィーも十分分かっていたので、一旦黒檀の高価な椅子に座っていたのをわざわざ立ち上がり、クロエを安心させるように笑顔を浮かべてゆっくり近づき、親愛の情を込めて優しく抱きしめながら話しかけた。


「何の心配もいらないのよ、クロエ。

 私には過剰なくらいの精霊様の加護があるの。

 王太子が何を仕掛けてきても、全て跳ね返してくれるわ。

 でも、クロエもその事は分かってるのよね。

 それでも、私を大切に思ってくれているから、心配してくれているのよね。

 ありがとう、クロエ」


 クロエは天にも昇る気持ちだった。

 心から敬愛する大地の乙女様に優しく抱擁され、労りと感謝の言葉を賜ったのだ。

 喜びが爆発して、心と身体が軽く昇天していた。

 それは上気して赤くなった顔と、腰から足にかけての軽い震え、急に力が抜けて床に倒れ込みそうになったので推測できた。


 だが、その姿を無表情で見て見ぬ振りをするカミラがいた。

 冷静沈着でポーカーフェイスのカミラだが、内心はクロエと同じで、いやクロエ以上に、大地の乙女様を思慕していたのだ。

 それは無意識に強く握りしめられた両手と、奥歯を強く噛みしめた事でほんの少し引きつった表情で察せられた。


「カミラ。

 カミラも私の事を愛し心配してくれているのよね。

 分かっているわ。

 カミラは照れ屋さんだから、表情には表さないけれど、何時も私の事を一番に考えてくれているのよね。

 ありがとう、カミラ」


 ソフィーはそう言いながら、内心クロエの事を羨ましく思い、嫉妬さえしていたカミラにもゆっくりと近づき、優しく抱擁した。

 嫉妬を感じていたカミラだが、ソフィーに優しく抱擁された事で、全ての暗い思いが霧散した。


 三人が親愛の情を確かめていた時に、無粋な人間が部屋を訪ねてきた。

 

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