ショートショート「剽窃(ひょうせつ)の女王」

棗りかこ

ショートショート「剽窃(ひょうせつ)の女王」(1話完結)





「また、ですかあ?」


アシスタントの美羽(みう)が、思わず大きな声で聞き返すと、

「そうよ。今回は、吸血鬼ものでいくの。」

売れっ子女流漫画家、明寿香(あすか)は、

満足気に答えた。


「でも、この間から、荻尾(おぎお)先生から、言われてますが…。」


荻尾れい…。


漫画界の草分け的存在で、今は漫画界の重鎮になっている、うるさがただ。

「このあいだは、SFもので、似ていたと…。」

控えめに言葉を選びながら、美羽が言うのを、


「そうよ。似ているのは、当たり前。」


平然と明寿香は大きく頷いて、みせた。

「わたしは、先生に漫画家への道を示してもらった人間なの。」

「先生の、“レオンシリーズ”…。それから、漫画にのめり込んで。」

明寿香は、仕事場を動き回りながら、

回想にふけった。


「先生が出す新作を、発売日に本屋を回って手に入れた大、、、、大ファンなのよ。」

「はあ。」

美羽は、明寿香に気圧されるように、相槌を打った。


「一作一作が、私の漫画の原点。」

「あの方がおられなかったら、今の私はないの。」


「だから、…。」


「あの方へのオマージュで、作っているのよ、私の漫画は。」

あの方の、舞台背景を踏みながら、私なりの個性と筋立てを、加味して、作品を作り上げる…。


「だからね…。今回は、吸血鬼もの。」


ヨーロッパの華麗なる非情の世界を、私流に繰り広げるのだと…明寿香は、胸を張った。


「レオンも。アンジールも。そのまま、名前を出しましょう。」

「いいんですか?」


「いいのよ。ファンなんだもの。」明寿香は、大きく頷いた。


著作権の二次利用の、手続きをとって頂戴…と言われて、

編集の前薗は、指示に頷いた。


レオンが、アンジールがあんなこと、こんなことを…。

昔の漫画ファンは、飛びついた。



「剽窃の女王」…明寿香は、高らかに笑った。

「ね、当たったでしょ?」


一方。

彼女は、大ヒット漫画家として、同人誌界にも、根強いファンを持っていた。


コミケに出される作品は、明寿香の漫画をモチーフにしたもので、コーナーがあふれかえっていた。


「明寿香さま~♡」



同人誌が飛ぶように売れ、今日も同人作家が、明寿香の漫画を追い掛ける。


熱にうかされた彼女らに、明寿香への遠慮は微塵もない。


ばっちりよ…。受けも攻めも、キレッキレよ~と、

彼女らは誇らしげに胸を張った。


「さあて、今日も完売御礼で、いくわよ♪」



幕張は、今日も、快晴である…。



―完―



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ショートショート「剽窃(ひょうせつ)の女王」 棗りかこ @natumerikako

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