2063/05/26Mon.(4)
11:50、病棟は昼食の時間帯を迎えていた。入院患者は食事をナースステーションの横にあるホールで取るのが一般的であったが、陸はホールまで移動するのが困難なので、いつも独り病室で食べていた。陸が昼食を食べていると、病室のドアが開き、
「ここまで誰にも見られないように来るの大変だったよ」
と咲良が周りの目を盗むようにひっそりと入ってきた。咲良はテーブルの上に何か袋のようなものを置くと、病室の端に置かれていた見舞客用の椅子を持って来て腰を下ろす。
「それは?」陸はテーブルの上の袋を指差した。
「あーこれ?私のお弁当。と言っても、おかずはほとんど冷凍食品だけどね。VRの中とは言えお腹ペコペコ。それより、陸くん、何かいい考え思い付いた?私達どうすればいいのかな?」
冷凍食品と言っても、陸の昼食より格段に美味しそうに見える。陸は箸を口に運びながら、
「一応ね、メールの送信元に問い合わせてみたんだけど、やっぱりだめだった。メールの案内の通りっていう返事しか返ってこなかったよ」
「そっかーもう、どうしようもないのかな?」
咲良にしては珍しく弱音を漏らす。
「あと俺達ができることといったら、掲示板のアーカイブのメッセージを調べるくらいしか。でも、パスワードがなぁ。パスワード、、、」
と陸は悔しそうに呟いたが、その後、何か閃いた様子で、
「そうだ。この前、咲良とケンカした後にまた夢を見たんだ。俺が咲良に指輪をプレゼントしてたんだけど。持ってたりしないよね?」
『私達の秘密ね・・・』
陸の頭の中には夢の中で咲良が言った一言が浮かんでいた。陸は咲良の手元に視線を落としたが、それらしいものをはめているようには見えない。
「それってもしかして、これのこと?実習中は指輪できないからこうしてネックレスにしているんだ。掲示板の写真で付けていた指輪と同じだと思う。もちろん記憶はないんだけど」
と言いつつ咲良は胸元からネックレスを取り出した。そのネックレスのチェーンの先には見覚えのある指輪が通されている。
「ちょっと待ってね。何か役に立てばいいんだけど」
咲良はそう言いながらうなじに手を回すとネックレスを外し陸に差し出す。陸は受け取った指輪を隈なく調べたが、夢の中で見たものよりも若干くすんでいる程度で、パスワードらしきものを見つけることはできなかった。
「あれ、おかしいなー何かあると思ったんだけど」
言いつつ、陸は夢の中のように部屋の照明に指輪をかざす。すると、指輪の表面に微細な3Dホログラム加工されていたのか、特定の角度に指輪を傾けると文字が浮かび上がった。
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