2063/05/17Sat.(1)

 加地海浜公園は、中央に噴水広場と大きな芝生広場があり、その周りを取り囲むように、約1.5キロのランニングコースと遊歩道が整備されていた。元々は森林公園だったが二年前の火災により大部分が焼失し、その部分に芝が植えられ現在の形に再建されたという歴史がある。今の時期は気候も良く、週末ということもあって公園は人で溢れかえっていた。


 普段、陸は人気を避けて芝生の広場の端にあるベンチで時間を過ごすことが多かったが、この日は咲良と待ち合わせしていたため噴水の前のベンチに腰を下ろしていた。五月とは思えないほど日差しが強かったが、風に運ばれた噴水の細かい水しぶきが火照った肌に当たり心地よさを感じる。ただ噴水に反射した陽の光が時折り目に入り陸は眩しさを覚えていた。


陸が時間を確認しようと腕時計に視線を落とした時、その不意を突くように、


「こんにちは、陸くん」


背後から女性の声が聞こえた。陸が振り返ると、そこには白い花柄のワンピースにツバの広い麦わら帽子を被っている女性が立っていた。陸が座ったまま視線を上げると、逆光の中、優しく微笑む顏が。


「あっ、こんにちは、、、」


とっさのことに言葉が続かない陸。数秒後ようやく出てきた言葉は、


「今日は天気がいいですね」だった。


すると、「そうですねー今日は暑いですねー」


と女性は笑顔で冗談交じりに返した。


「咲良です。よろしくね。隣座っていいかな?」


「あっ、陸です。どうぞ」


そう言いながら陸はベンチに付いた水滴を手で払おうとしたが、水滴は潰れるだけで逆に水を広げてしまう。それを見ていた咲良は、


「ありがとう。でも、気にしなくていいよ!!私、残念ながらお姫様みたいな性格じゃないから」


と言ってベンチの前に回り込むと、濡れていることを全く気にせず腰を下ろした。陸の横に座った咲良は周囲を見まわしながら、


「この公園素敵ね。いつもここにきてるの?この辺にはちょくちょく来るけど、ここは初めてだなぁ」


まるで陸を落ち着かせるようにゆっくりとした口調で問いかけた。


「そうだね。俺はあそこのベンチでゆっくり昼寝するのが好きなんだよね。わざわざここに来てすることではないんだけど」


いつも病室だから、、、陸は喉元まで出た言葉を飲み込んだ。


「いいと思うよ、人それぞれだし。それに私も昼寝は大好き。そう言えば、陸くん、この後時間ある?」


陸が時計を確認すると、ストップウオッチのカウントは01:45:25。張り切って待ち合わせ時間よりだいぶ早く来ていたため、時間は半分も残っていなかった。


「その感じだとあんまり時間ない?せっかくだから、ご飯でも食べながら話さない?実は近くに行きたい店があって、調べてきたんだ。どうかな?」


「あーいや、俺は大丈夫だよ。行こう」


咲良と会うことだけを考えて、肝心のデートプランについては全く考えていなかった陸にとって、咲良からの提案は渡りに船だった。


「決定ね。こっちだよ」


と咲良は嬉しそうに公園の出口の方を指差し、陸の手を取った。そして、二人は人ごみをかき分け、公園の出口に向かった。


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