異世界魔女裁判ガリレオ

@rakugohanakosan

第1話被告ガリレオ イントロ実験

「ガリレオ君、これを手に持ってくれたまえ。持ちやすいように取っ手が付いているから」


「なんですか、これは、テイル先生」


「音叉だよ。で、俺もガリレオ君と同じものを持っている。ガリレオ君、その音叉を前に突き出してじっとしていてくれたまえ。けっしてその音叉を叩いて音を出そうとしてはいけないよ」


「わかりました、テイル先生」


「それでは、俺がこの自分の手に持っている音叉を叩いて音を出す。ここはスタジオだからよく音が響くことだろう。それっ」


 チーン


「次に、俺が音叉が震えて音を出しているところを押さえて震えを止めて音を出さなくする。ところが……」


 チーン


「わ、わたしの音叉が音を出しています。どうしてですか、テイル先生。わたし、わたしが手に持ってる音叉叩いたりしてないのに」


「とりあえず、ガリレオ君も音叉を押さえて音を止めてくれ。今度は、ガリレオ君が音叉を叩いて音を出してくれたまえ。俺の音叉はこの通り震えてもいないし、音も出していないことはわかるよね」


「その通りですね、テイル先生。たしかにテイル先生の音叉は静かです」


「では、ガリレオ君の音叉を叩いてみてくれたまえ」


「わかりました、テイル先生。えいっ」


 チーン


「そして、ガリレオの手元で音を出して震えている音叉を押さえて音を止めてくれ」


「はい、テイル先生」


 チーン


「どうしてですか、テイル先生。わたし、この通り音叉を押さえていますよ。音も出ていないはずです。ほら、耳に近づけてみてもこの音叉からは何も聞こえませんもの」


「落ち着きなさい、ガリレオ君。音を出しているのは、俺が持っている音叉だ。近づいて確かめてみなさい」


「ほ、本当ですね、テイル先生。テイル先生の持っている音叉の方が音を出しています。でも、どうしてなんですか。わたしの音叉とテイル先生の音叉は直接に接触したわけじゃあないのに」


「これを『共振』と言う。簡単に言うと、一方の音叉が放出している音に影響されてもう一方の音叉も音を出したと言うことだ。この現象が起こる理由についても話したいんだが、今回はそれが目的じゃない。今回の実験の目的は、俺とガリレオ君の距離が二倍になるとどうなるかということだ」


「どうなるんですか、テイル先生」


「それを今から実験して確かめるんだよ。なにごともやってみなければわからないからね。それでは、ガリレオ君は俺からの距離を二倍にしてくれ」


「わかりました、テイル先生……こんなものでいいですか?」


「いいだろう。ガリレオ君の音叉は音を出していないね」


「はい、テイル先生。静かなものです」


「それでは音叉を鳴らすよ。それっ」


 チーン


「どうだね、ガリレオ君」


「鳴っています、テイル先生。わたしの音叉も音を出しています」


「音の大きさはどうだね」


「それは……さっきよりは小さくなったと思いますけど……」


「『小さく』か……たいへん主観的で曖昧な感想をどうもありがとう、ガリレオ君」


「はい、テイル先生。光栄です」


「では、今度は距離を三倍にしよう。俺とガリレオ君の距離を二倍から三倍にしてくれたまえ」


「わかりました、テイル先生……これでいいですか」


「じょうできだ、ガリレオ君。ガリレオ君の音叉は音を出していないね。それでは音を鳴らすよ。それっ」


 チーン


「どうだね、ガリレオ君」


「わたしの音叉も音を出しています、テイル先生。でも、距離は三倍に鳴ったのに、音の大きさは三分の一よりもずっと小さくなった気がします」


「すばらしい、よく気がついたね、ガリレオ君」


「どうもありがとうございます、テイル先生」


「音の強さは、距離が二倍、三倍になると、四分の一、九分の一になる。距離の二乗に反比例するということだ。音叉が出す音というものは、なにもガリレオ君の方向にだけ出されているわけではない。前後左右上下のすべての方向の向けて出されている。ちなみに、この空間は縦横高さの三次元空間だから、空間の体積は距離の三乗に比例するわけだな」


「なら、音の強さは距離の三乗に反比例するんじゃないですか、テイル先生」


「そう言うと思ったよ、ガリレオ君。ガリレオ君は音をどこで聞く?」


「耳ですけど」


「耳のどこだね」


「鼓膜ですか」


「そうだ、ガリレオ君。鼓膜というのは面だ。つまり面積で音の力を受けるわけだな。で、面積というのは長さの二乗に比例する。そのぶんが相殺されて、音の強さは距離の二乗に反比例するわけだな。音叉がどうなるかは実験してみるといい。そして、この現象を逆二乗則という。これは音に限らない。全方位に発せられるものなら皆そうだ」


「例えばどんなものがあるんですか、テイル先生」


「光や磁力がある。静電気力もそうだし…よっと」


 ピョンッ


「どうしたんですか、テイル先生。急にジャンプなんかしちゃって」


「俺はジャンプしたが、なぜ飛び上がり続けずに着地したと思う、ガリレオ君」


「それは……重力がテイル先生に働いたからじゃないですか」


「その通りだ。そして、重力というのは俺と地球に働く万有引力のことだ。そして、この引き合う力は、全方位に発せられる。つまり……逆二乗則が成立するということだ」

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