DBG的な

NTN

第1話 ドカグシャアバキズァッ! ・・・的な。


 目覚めてから既に二十時間。歩いた時間、三時間。飯、着替え、その他身支度、三十分。

 戦っている時間、……残り全て。(なお敵が全滅し追加が突撃してくるまでの数秒も含む。)


「……そろそろ帰らせろよォ!!」


 すでに腕の感覚はなくなっていたし、魔力なんて最初の二時間で既に枯渇した。握る剣の刃は鈍り、もはや打ち付けるように使う。……もちろんそんな風に剣を振るったら簡単に折れてしまうわけで、その度にそこらじゅうに転がっている”元”仲間の冷たい腕中から引っこ抜く。そんなことを、もう十数回は繰り返した。


 ここが荒野で良かった。足を滑らせることも、急な天候変化で劣勢に立たされることも無い。……帰り道がわからないことは問題だが。


 そんなこんなで、味方が全て倒れ、目の前には百を超える魔物の軍勢があったとしても、俺:ドゴーン・ユウヒはまだ戦うことをやめていなかった。


「!!!!9タバv!!」


 人語を模した奇声を発しながら迫ってくる魔物たち。__この戦いの意味さえも知らず、ただ格上の魔族に使われているだけの、意思なき戦闘兵。

 単純な彼らには、疲弊しきった俺の動きさえも捉えられない。そのわかりやすい攻撃が、躱し、透かされることをいまだ把握しきれていない。


 一番に飛び込んできた魔獣犬。その鋭い噛みつきに対し半歩下がることで避けてやると、勢いのままにバランスを崩した大きな身体は、二度目の食らいつきを敢行しようと後ろ足に力を入れた。

 それが、命取りだ。


「止まったな!」


 ダラリと右腕に下げたままの剣を、左斜め上にスナップ。……鈍い音と共に魔獣犬は横へ倒れた。

 そして、その先。明らかに怯んだ様子の後続、ゴブリンが、それでも意を決して飛びかかってくるのが目に入る。だから、振り上げたままの剣を、タイミングよく振り戻す。緑色の肉が視界から消え、目の前が開けた。

 ゆえに、前へ一歩。


「Ⅴッチⅱ、9ル匕!!」

「ヤヴァイヴォスを俺の前に寄越せ。俺の敵はそいつだけだ!」


 ヤヴァイヴォス。それが、今回の進軍の目標。……「だった」という方が、一人きりになった人類側にとっては適切かもしれないが。

 世界を二分する人類と魔族の居住区。その人類側東端。”メチア・トー”の大地を侵略、占領してきた魔族軍の大幹部こそが、ヤヴァイヴォスなのだ。

 そして、ヤヴァイヴォスを倒したならば。ここ、メチア・トーの平和を取り戻すことができる。


 ここで引くわけには行かないのだ。

 ヤヴァイヴォスを取り囲む魔物は、一体ずつ減らしている。奴の元にも着実に近づいている。


「邪魔だァ!」


 飛びかかってきたトロールを蹴り飛ばし、そこらの魔獣を盾にして飛んできた魔法弾を防ぐ。なるべく四肢を削ぎ、反撃されないように。実体のないスライムやゴーストはまとめて叩き潰す。


「ヤ7ア・・・!」

「早くヤヴァイヴォスを出しやがれ!」


 そして叫ぶ。魔物の声に潰されぬよう、強く、太く。


\\\


 叫びが伝わったのか、それとも、あまりに下級魔族では歯が立たないことを察知したのか。次第に強力な魔族が増えてきた。


「ナゼキサマ、動ける!?」


 人語を自在に操れるモノも増えてきた。……それとともに、断末魔も生々しくなってきた。

 だが、やることは変わらない。

 目の前の障害を倒し、進むだけだ。


「トマレ!!」


 金属質で構成されたゴーレムを投げ飛ばし、前に進もうとすると目の前に一つの影が浮かび上がった。

 俺のものでも、今しがたのゴーレムでもない。……ほかに、影を落とすものもない。


 そこにある影は、まるでこちらへと襲いかかってくるような形を作った。

 影は腕を伸ばし、その先、爪を俺の影へと伸ばし__、影が繋がった瞬間、右腕に激痛が走った。


「貰っタぞ。一本」


 血が出る。激痛。そして、右腕が太い指で貫かれているという、実感。

 ____影の中で生きる種族、影血鬼。


 動きの止まった俺を見て、周囲の魔族が奇声を上げる。右腕、利き手。取り落した剣は、歓声を悲鳴とも呼べる歓喜へと変えていく。

 呼吸する。まだ動く。黒色に近い大地を見ながら、死んだ仲間を空に見る。まだ、止まれない。


 左腕、……いいや、まだ、右腕以外は、まだ動く。


「十ドナ+二・・!!」


 影が、奇声とともに動き出した。

 音もなく、遮りもなく、直線に。避けることもできず、ただ結果として、”そこで起こった”ということだけが、残る。


 そういう種族、それができる、恐ろしくも素晴らしい蛮敵。


 だから、超えていく。右腕を、肩を振ることで前へ。……その影同士が、ちょうどぶつかるように。接触。かすかに残る痛覚がその一瞬を伝えた。

 左腕を伸ばす、後ろに。そして拳を振り戻す。狙いは右腕。痛覚の地点。

 右肩より先の感覚が、完全に飛んでいく。そして、影の砕ける光景と、たしかに左腕から伝わる肉ではない硬質で粘性な触感を貫く快い衝撃が脳を支配した。


「くれてやるよ。二度と来るなァ・・・!」


ーーー

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