運動会日和……?

「わーい! 今日は運動会だー!」


 今日は晴れ晴れとした、雲一つない青い空。爽やかな風。

 とてもいい運動会日和だ。

 だが、真菜は乗り気ではないのか、浮かない顔で――


「ねぇ、結衣。運動会……って、そんなに……楽しい?」

「え? どうしたの、真菜ちゃん?」


 結衣はそうやって純粋に訊いたことを激しく後悔した。


「だって、私……親が……いないから……」


 乾いた笑みで結衣の疑問に答えた真菜に、結衣は罪悪感が芽生える。

 だが、結衣は真菜の手を取って握ると、


「私がいるよ! 今日は二人で一緒に楽しもう?」


 と恥ずかしいセリフを言って、真菜を元気づかた。

 真菜も、今度は心の底から嬉しそうに笑う。


 ……今まで言い忘れていたかもしれないが、せーちゃんと緋依は学校が違うので今回は出番はない。


「ちょっと! 私の声マネしてさらっとメタいこと言わないでよ!」

「へっへーん! 結衣様は隙が多すぎですよぉ」


 久々のどんちゃん騒ぎを、結衣は他人事のように懐かしいと思ってしまっていた。

 何だかんだ言って、こういうのも悪くないかもと思っている。


 すばしっこく動き回るガーネットをやっとの思いで捕まえた時、運動会の開会を宣言するアナウンスが響いた。


「結衣……っ!」

「うん! 急がなきゃ!」


 運動会の会場――グラウンドから少し離れた人気のない場所にいたので、走らなければ間に合わない。

 だけど――


「結衣様!」

「うん! 真菜ちゃん!」

「わ、わかっ……た!」


 ガーネットを掴み、真菜を背負うと。


「――認識阻害シャットアウト!」


 そう紡ぎ、私たちは飛んだ。


 ☆ ☆ ☆


 私の出る種目は、50m走、組み体操、騎馬戦、玉入れだ。

 真菜もだいたい同じ。

 というか、種目決めの時に「一緒にやろう」とお互い決めていたからだ。


「わー! なんだかわくわくするね!」


 開会宣言が終わり、いよいよ運動会が始まる。

 保護者席に既にお父さんとお母さんが座っていた。

 結衣が軽く手を振ると、二人が気づいて、それぞれ手を振り返してくれた。

 自分でやっておいてなんだが、小っ恥ずかしくなってきまようで、目線を変える。


「第一競技、学年別リレーです」


 そのアナウンスにハッとする。

 50m走はリレーの部類なので、結衣の出番が早くも回ってきた。


「緊張するなぁ……」

「うっふっふ。私の出番ですかねぇ……!」

「は!?」


 運動会の会場に似合わぬ、どす黒い声が聞こえる。

 思わぬ声に、結衣は全身が飛び上がった。


「急になんなの……?」


 自覚はなかったようだが、結衣の目にはじわりと涙が浮かんでいる。

 そんな結衣をスルーし、ガーネットは認識阻害魔法をかけながら目の前に現れた。


「私を使ってみませんかぁ?」


 嬉々とした声色でそんなことを言っていたが、結衣は嫌な予感がし。


「いや、いいや」


 ばっさりと断った。

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