第215話 その願いは叶えられない

「『魔法使いの願い事』……この本はお主――結衣なら知っておるじゃろう?」

「『魔法使いの願い事』…………あ、もしかして……私がせーちゃんと出会う前に見つけた本……?」


 『魔法使いの願い事』――その本は、ガーネットが自分の一部だと言っていた。

 それが今、みんなの力がルリの力だと言うことと、なんの関係があるのだろう。


「ご名答じゃ。まあ、だから厳密に言うとわしだけの力ってわけではないがな」

「え、ど、どういうこと??」

「まだ解らんのか? その『魔法使いの願い事』という本こそが――わしがみなに与えた力なんじゃよ」


 ルリの力を本に変えてみんなに与えた?

 本当にそんなことが出来るのだろうか……いや、実際に出来ている。


 結衣たちはルリの話を聞いて、改めてルリの力を思い知った。

 結衣が苦戦を強いられてきたあの戦いの全ての力が、ルリ一人のものだと言うことは、ルリは正真正銘の最強なのだ。


「まあ、子どもでも扱いやすいようにそれぞれが扱いやすい形として顕現させておるわけじゃ」


 それは矢だったり、ひし形の何かだったり、神の光だったり、黒い影だったり、手裏剣だったり、竜巻だったり、コピーだったりするのだろう。

 本から魔法のステッキになったガーネットのように、みんなそれぞれに与えられた本が違う形を持って現れたということ。


「それはガーネットが与えている温情じゃな。願いの力を高めるだけ高めてあとはポイ……って感じじゃからな」

「…………は?」


 結衣は、ルリの言っていることがわからなかった。

 ガーネットは、自分を守ってくれる代わりに結衣の願いを叶えると言ってくれたのに。

 ルリの言い分が本当なら、あれは全部……嘘だったということになる。


「ち、違うよね……? ガーネットは……私の願いを叶えてくれるって……言ってたもんね?」


 結衣のそれは、確認ではなく願望だった。

 そうであって欲しいという願望。

 だが、ガーネットは無言のまま、肯定も否定もしなかった。

 それが却って、結衣の心をかき乱す。


「じゃあ……私たちの戦いも、願いも、全部……無意味だったの?」


 結衣は耐えられなくなり、その場に崩れ落ちた。

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