第216話 ルリの道具となったガーネット

「ふむむ? なんじゃ……何もしてないのに倒れるとは……」


 ルリが崩れ落ちた結衣を見て、呆れた様子で言う。

 だが、その声は結衣には届かなかった。

 結衣の身体は小刻みに揺れていて、不穏なオーラが流れている。


「ん? なるほど……その姿は不完全じゃしな。倒れるのも無理はないか……」

「……なにか知ってるんですか……」


 ルリの言葉に、今まで口を閉じていた緋依が反応する。

 緋依はルリを睨むように見た。


「まあな、伊達に何回もこの世界を繰り返してきたわけじゃないしな」

「……じゃあ、あたしたちのことを隅々まで知ってる……ってことね」

「なんだか怖いですにゃ……」


 訝しげな顔でルリを見ているせーちゃんと、声と身体を震わせている夏音。

 それをルリは面白そうに、見下した笑顔を浮かべて見ている。

 そんな時。


 ――ガブッ。


「うぐっ……!」


 吸血鬼姿になったカスミが、ルリに噛み付いた。

 血を吸われ、ルリは苦しそうに顔を歪める。

 そして、血を吸うことで能力も吸ったカスミがルリの能力を発動し――


「――……ワッツ?」


 ――ようとしたが、なぜか何も出来ない。

 カスミが戸惑っていると、ルリが大声で笑う。


「ふはははは! わしは魔女だぞ? お主らよりも余程経験を積んでおるわ」


 何が起きたのかわからないが、ルリがカスミの能力を防いだらしい。

 だけど、カスミの牙は確実にルリの首筋に入った。

 なのになぜ……

 みんなが困惑していると、違う方向からルリの声が聞こえた。


「そやつは私の身代わりじゃ」


 その声が聞こえると同時に、カスミの牙を受けたルリが消える。

 そして、本物のルリがみんなに近づく。


「んー! ノーネームはやっぱり最高じゃな〜! わしの想像を忠実に再現してくれるなんてな」


 ルリはとても嬉しそうに微笑む。

 さっきのはルリの力ではなく、ガーネットの力ということなのだろうか。

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