第180話 さきねがの力

「おおおー! 映画館だ!」

「朝早いからか、人が少ねーな……」

「人が少ない方がいいわよ。その方が席取りやすいしね」


 映画館は閑散としていて、利用者は両手で数えられるほど。

 そのため、席を決める時も空いている席がたくさんあった。


「よかったわね〜、席が取れて。……それにしても、二人ともよく朝早くに起きられたわね」


 今の時刻は午前8時。だが、起きたのは午前6時半。

 すごく早く起きたことがわかる。

 移動時間や出かける準備を考慮すれば、このぐらいの時間でないと間に合わないのだが……

 それにしても、早起きが得意な幼女である。


「――では、これより『咲き誇る願いを―R―』の上映を開始したいと思います。チケットをお持ちの方は――」

「あ、呼ばれたよ! 行こっ!」


 結衣は興奮を抑えられず、楽しそうに駆け出す。

 その様子を見て、少女とお母さんはお互いの顔を見合わせて笑った。


 ☆ ☆ ☆


『いえ、分かってはいるんです。でも、どうしても人前では緊張して表情が固くなってしまって……。話しかける勇気がない意気地なしなのも相まって、ずっと友達が居なかったんです』


 主人公の友だちである“鏡座美咲”が、悲しそうに語り出す。

 意外にも感情移入しやすい少女は、今にも泣きそうな顔になっている。

 だが、そんなことなど知らない映画は、どんどん先の展開を見せていく。


『だから私、凄く嬉しかったんです。貴女が「友達になろう」って言ってくれて』


 今度は一転、嬉しそうに頬を赤く染めて笑う美咲。

 結衣と同じ白髪を、満足げに揺らしている。


「……やっぱり、友だちっていいな……」


 と、少女はポツリとこぼした。

 その声を聞き逃さなかった結衣は、美咲と同じように笑う。


「私の友だちと友だちになればいいんだよ。みんないい人だから! すぐ仲良くなれるよ!」

「……え」

「あー、それには名前が必要か……」


 少女の困惑を置き去りに、結衣は少女の名前を必死で考える。

 そして、ついに決まったのか、パァっと明るい表情になる。


「“魔央まお”はどう? 魔王っぽい印象あるし、ちょうどよさそう」

「安直だな!?」


 だが、その少女のツッコミは聞こえていないのか。

 結衣はなおも続ける。


「それに魔央の央は“おう”とも読めるし! ……どう、かな?」


 嬉しそうに話していた結衣だったが、少女の気持ちを聞いていないことに気づき、慌てて不安そうに訊いた。

 少女はとても困惑していたが、果たして少女の答えは――


「……そ、その……ありがと……」


 ――照れくさそうに、了承した。

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