第181話 ガーネットの新たな形態

「へぇ〜、“魔央”ね……いい名前じゃない」

「えっへへ。そうでしょそうでしょ!」


 映画を楽しんだ後。

 ちょうど昼時になったため、近くのレストランで昼食を摂っていた。


「……っ、もうそんな話はいいだろ。さっさと食おうぜ」

「ふふふ。魔央は恥ずかしがり屋さんなのね」


 ガツガツとカレーを頬張る魔央と、その食べっぷりを愛おしそうに見るお母さん。

 そんな二人を見ていて、結衣は自然と笑顔になる。

 こんな平和で、なんでもない普通の日常が続いたらどんなにいいか……


「……ねぇ、ガーネット」

「ん? どうしたんです?」


 結衣は二人に気づかれないように、静かにガーネットに話しかけた。

 それに気づいたガーネットが、小首を傾げるような仕草で応える。


「こんな平和な日常が……ずっと続くといいね……」


 結衣本人も、この時なぜガーネットにこれを言ったのかはわからない。

 だが、ガーネットなら――


『あっははぁ。そうですねぇ〜! これからもよろしくお願いしますぅ!』


 とか、元気に言いそうなイメージがあったが。

 その時は、なぜか心苦しそうに呟いた。


「……っ、それは……難しいかと……」

「え?」

「ごめんなさいっ! 結衣様っ!!」

「へっ!?」


 ガーネットがそう叫ぶと、煌びやかな光を放った。

 結衣は目を開けていられず、腕を目のところへ持ってくる。

 魔央とお母さんも、何が起こったのか分からず狼狽えている。


 そして、光が収まった時。

 ガーネットの姿が変わっていたのだ。

 それは、魔法のステッキでも、本でもなかった。


 ただの――普通の少女のように見える。

 ハーフのような顔立ちに、小麦色の短い髪、桜色の瞳を持った少女。

 なぜか結衣は、その姿に既視感を抱いた。

 まるで、あの時の――


(……え、なに……今の……)


 昔の、古い記憶が呼び起こされたような感覚がある。

 結衣がその感覚に戸惑っていると、ガーネットらしき少女が……


「……ごめんなさい。結衣様……っ!」


 と、泣きそうな顔で店を飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る