第171話 独白と過去と意外性

 ――あいつの全てが嫌だった。

 どうしようもなく、自分でもわけのわからない感情が一気に溢れ出す。


 ――あいつの顔が嫌いだ。

 自分と似ているから。自分とそっくりな顔がもう一人いるなんて考えられない。


 ――あいつの声が嫌いだ。

 気を抜けば飲み込まれそうだからだ。あの優しげで儚いながらも、しっかりとしたあの声に。


 ――あいつの性格が嫌いだ。

 本当は臆病でビビリなくせに、精一杯何かに立ち向かおうとするその姿勢が……気に入らない。


 ――……本当に、何もかもが嫌いだ。

 なぜ、こんなやつに――生が与えられたのかだろうか……


 ☆ ☆ ☆


『…………ぇ、ねぇ、お姉ちゃ……嫌……こんな……なるなんて』

『……だい、じょうぶ…………私の事は……から……』

『な、何言って……うぅ…………わかっ、た……』

『ん…………よろしくね……後は、頼――』


 ☆ ☆ ☆


 ハッと目を覚ます。

 嫌な夢を見ていた気がする。


「あー……くそっ。やっぱり殺しとけばよかったかな……」


 不機嫌そうに頭をかきながら起き上がる。

 布団から這い出て、洗面所へ向かう。

 洗面所にある鏡を見ると、なぜか髪は重力に逆らって浮いていた。


「なんじゃこりゃ!」


 少女はたまらず叫んだ。

 なんでこんなことになったのか……

 ブラシとドライヤーを駆使して、必死で髪を整える。

 だが、一向に直らない。


「……チッ。あー……嫌なことありすぎんだろ……」


 少女は投げやりになり、ブラシを投げ捨てた。

 イライラ度が高まってきた少女は、ドスドス床を踏み鳴らしながら歩く。


 それにしても、なぜこうも不幸――と呼べるかはわからないが――が続くのだろう。

 少女が何かストレス発散になるものを探していた時。


「おや、どうしたんだい? ――

「おばあちゃん!」


 少々くぐもった感じながらも、優しげな声が響く。

 その声に、“結衣”と呼ばれた少女がパァーっと顔を輝かせる。


「おばあちゃーん!」


 そして少女は――おばあちゃんに、勢いよく抱きついた。

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