第170話 次の約束

 魔力を回復した少女は、自分の身体を確かめるように見回す。


 ボロボロだった服は元通りになり、無数の軽い傷や汚れが消えている。

 試しに手を閉じたり開いたりして、ちゃんと正常に動くかを確認する。


「……すげぇ……」


 少女は思わず感嘆の声を零す。

 先程まで激痛に苛まれていた身体が嘘のようだ。


「ふぅ……よかった……」

「あははぁ。危ないところでしたねぇ」


 結衣が安心したようにそう言うと、ガーネットも笑いながら話し出す。

 いつものように、ふざけた感じで。


「結衣様が助けなかったら、今頃は――アレでしたからねぇ〜」


 なんでもないことを語るように言ったガーネット。

 だが、少女はそれほど戦慄していないようだ。

 というより、自虐的な笑みを浮かべている。


「……別に、だって俺そもそも……」


 少女が呟いた声はだが、誰にも拾われることはなかった。

 そして、少女は結衣に向き直り、ぺこりと頭を下げる。


「……助けてくれてありがとう。感謝はしてる。だが……」

「……うん。わかってる。いいよ、ちゃんと話してくれるまで待つから」


 少女が気まずそうに言うと、結衣は天使のような笑顔を浮かべる。

 その言葉に、偽りはない。


 そうと分かると、少女は少しだけホッとしたような表情になる。

 それを感じ取った結衣は、満足そうに少女の近くから立ち去ろうとした。

 その時。


「……次こそ、ぜってぇ負けねー」


 健全な殺意を滲ませて、笑顔を浮かべながら呟いた少女。

 その言葉を受けて、結衣は――


「……楽しみにしてる」


 と、不敵に笑った。

 その少女たちにもうわだかまりはなく、お互いを好敵手と認識し始めている。


 そんな二人を見て、お母さんはどこか満足そうにしていた。

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