第159話 怒っていたわけではない

「え? 私が嫌だったわけじゃないの?」


 月の光が道しるべとなり、林の出口付近まで来ることができた。

 施設の光が見えてきた時、カスミが思いもよらないことを言った。


「だ、だって……私が嫌だからこの子と手を組もうとしてたんでしょ?」

「ああ、俺もそう聞いたけど……」


 結衣が混乱していると、赤毛の少女も割って入ってくる。

 そんな二人の言葉に、カスミは困ったような顔を浮かべて言う。


「あ〜……それは……そこの魔王を騙すための嘘デスヨ」

「はぁ!? なんだよそれ!」


 カスミの言葉を聞いて、少女は叫ぶ。

 それが本当なら、少女はまんまと騙されたことになる。


「そ、ソーリーデス……! でもっ、結衣サンを守りたかったンデス!」

「え、わ、私……?」


 またもや、カスミが思いもよらないことを言った。


「そ、そう……デス。だって……この魔王サンは結衣サンのことを憎――嫌っているデショウ?」

「なんで言い直したのか……って、訊いてもいいですかぁ?」


 呆れたように、カスミを問い詰めるように言うガーネット。

 だが、その言葉を華麗にスルーして、カスミは続ける。


「だから、手遅れになる前に……魔王サンを騙して倒そうと思ってたンデス」

「……そうだったんだ……」


 結衣は有り難そうな、申し訳なさそうな――複雑な表情を浮かべる。


 カスミがそこまで考えていてくれたことを、結衣は知らなかったから。

 そこまでしてもらえるようなことを、結衣はした覚えがないのに。

 それなのに、カスミは自分のために――


「ゆ、結衣サン……!?」


 カスミはあたふたと慌て、目を見開く。

 カスミが慌てているのも無理はない。

 何せ今、結衣はカスミに抱きついているのだから。


「ありがとう、カスミちゃん。本当に、そこまでしてもらえて嬉しい……!」

「え、いや……その……結局結衣サンを巻き込んじゃったし、そんなこと言ってもらえる資格……ミーにはないデスヨ」

「そんなことないよ! これは私が勝手にしたことだし、カスミちゃんのせいじゃないから……!」


 結衣とカスミは、泣きそうになる眼を必死に抑えて会話をする。

 先程まで結衣しか抱きしめていなかったが。

 カスミはおそるおそる腕を伸ばし、結衣を抱きしめ返す。


 そんな二人のやり取りを、ガーネットは少し遠くから眺めて興奮している。


「うふふふふ……小学生の友情っていいですよねぇ〜! 最高ですよ!」

「……そ、そう……なのか??」


 ガーネットが興奮しているのは別のもののような気もするが……


「まあ、いっか」


 少女は細かいことを考えるのをやめて、抱き合っている結衣とカスミを眺めた。

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