第158話 喧嘩をしたなら

 魔法少女を閉じ込める結界のような場所。

 殺伐としたオーラが漂うそこに、三人の魔法少女の姿がある。

 そのうちの一人が、苦しそうに顔を歪めた。


「うっ……ぐぁ……っ」

「結衣様!? ――な、なんですか……この空気。まるで“毒”が混ざっているような――」


 そこまで言って、ガーネットはハッと気づく。

 “人の願い”によって黒く濁る神の光。

 それはつまり、願いが強ければ強いほど黒く濁りまくるということであり。

 黒く濁りまくれば、魔法少女にとって最悪の毒となる――!


「結衣様! ここは危険です! はやくここから去った方が――」

「……だめ、だよ……」


 今にも死にそうな顔で、掠れた声を出して言う。

 もう、歩く力すら残っていないのかもしれない。


「な、何言ってるんですか! なんなら私が結衣様を飛ばしますから……っ!」


 ガーネットは今にも泣きそうな声で叫ぶ。

 それは己がマスターのために、ガーネットができる最大限だった。

 だが、それでも結衣は首を横に振る。


「……だめ。二人を……置いてっ……いけない……からっ……!」


 そこで、カスミと魔王はハッとした。

 自分が危険にさらされていても。

 相棒がどんなに自分を心配していても。


 人のため……いや、自分たちのために立ち上がっている――!

 それに気づいたカスミと魔王は、気まずそうに互いの顔を見やる。


「……結衣サン、ソーリー……デス」


 カスミが結衣の頬に手を当てる。

 すると、やけに黒かった空に光が見えてきた。

 この光は、月だ。

 優しく包み込むような光を受けて、少し調子が戻ってきた結衣が呟く。


「……綺麗……」

「改めて、ソーリーデス……結衣サン。ケド、これだけは言わせて欲しいデス。――ミーは、結衣サンに出会えて……ホントに……よ、良かっ……」


 途中からカスミの涙腺が崩壊し、滝のように涙が出てくる。

 カスミは罪悪感を感じているらしい。

 だが、なぜカスミが泣いているのかわからない結衣は、わたわたと慌てた。


「えっ……? う、うん……それはわかってるよ? それでも自分の願いが大事なんでしょ? そういう気持ちわかるから……大丈夫だよ」

「うっ……ひっく……結衣サンは優しすぎマス。もっと怒ってもいいと思いマス」

「え、なんで責められてるの??」

「こういう展開も面白くていいですねぇ! もっと責めてやってくださぁい!」

「ちょっ! ガーネット!?」


 久々のギャグっぽい雰囲気に、結衣たちは笑い合う。

 喧嘩をしたなら、仲直りをすればいい。

 そのあとでたくさん笑えば、それでいい。


 それが、少女たちの結論のように思えた。

 そしてその結論が、少女たちにとっての幸せ……なのである。

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