将来の夢

 学校が終わり、結衣は自分の席でランドセルに教科書を詰めていると、ちょうど緋依の姿が見えた。


 緋依は、結衣の足元ぐらい小さく屈み、誰もに気づかれまいと気配を殺して窓の外に存在している。……というより、顔が窓に張り付いている。


 ――……え、何コレ。


「……えーと、緋依さん? ここで何してるの?」

「あ、結衣ちゃん。やっと気づいてくれたんですね」


 結衣が小さく声をかけると、緋依は素早く正座をした。

 そして、緋依はホッと胸を撫で下ろすも、結衣の頭は混乱したままだ。


 だが、そんな結衣に目もくれず、


「とりあえず、みんなせーちゃんのお家に集まってるので来てもらえます?」


 そう言って――翼を広げた。


 ☆ ☆ ☆


 せーちゃんの家に着いた結衣たちは、将来の夢について語り合おうとしていた。


「夢?」

「そうなんです! 私はもうすぐ中学生でしょ? だからみんなの将来の夢が気になったんですよね〜」

「ほぉ、なるほどなるほど! 私もそれ聞きたいでぇす!」


 ぴょこーん! と、当然のようにランドセルから姿を現したガーネット。

 そんなガーネットは、大層うざったらしく結衣たちの周囲を飛び回っている。


 だが、もうそんなガーネットに見慣れた結衣たちは、咎めるでもなくスルーした。


「……じゃあ、緋依……さんは……?」

「…………へ?」


 突如問われた言葉に、緋依は変な声を出す。

 だが、問うた少女――真菜は何がいけなかったのかわからないと言う様子で、首を傾げる。


「え……? だって、言い出しっぺ……だし……?」

「あ、あぁ……そういうことですか……」


 真菜と緋依の間に何があったのか――真菜もそんな様子だが――結衣にはわからなかった。

 結衣は頭にクエッションマークを浮かべながら、二人の様子を眺めている。


 そんな結衣に気づいたのか、緋依はゴホンと咳払いをする。


「そうですね……私は――弱い人の味方になりたいです」


 「だから――」と続けて、


「それが出来そうな仕事なら……なんでもいいです」


 緋依は照れくさそうに笑った。

 確かに緋依はそういう仕事が合いそうだと――みんなが微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る