将来の夢――続き

 そして、今まで沈黙を貫いてきたせーちゃんが口を開く。


「あたしは……色々迷ったけど――お父様の跡を継ごうと思う」


 凛とした力強い声で、部屋を震わせる。

 その目は真っ直ぐで、凛々しかった。


「親のことはあまり好きじゃないけど……ううん、だからこそ跡を継いで――お父様の代より大きくしてやるから!」


 せーちゃんはフンスッと息巻いて、拳に力を入れる。

 その顔は、自信に満ち溢れていた。


「……うん、せーちゃんなら出来るよ!」


 結衣はそう言って笑う。

 ――みんな、本当に色々考えているんだ。


「……私もしっかりしなきゃな……」

「ん? 何か言った?」

「別にー?」


 ポツリと零した言葉は――まだ、自分の胸にだけ秘めておこうと、結衣は思った。


 そして、話を戻すため、結衣は心を入れ替える。


「ところでさ、真菜ちゃんは何かやりたいこととかあるの?」

「え……あ、まあ……う、ん……」


 と言葉を濁して、真菜は指をいじる。

 だが、観念したのか――真菜は渋々口を開く。


「私は……先生に、なり……たい……」

「ほぇ……?」


 予想外の回答に、結衣は思わず変な声が出た。

 真菜が先生に憧れているようには見えなかったから。


「私……水谷、先生……みたい、に……なりたい……」

「んえ!? 水谷先生!?」


 あの理科室が落ち着くとか言っていた変じ……少し変わってる先生に?

 冗談だろうと結衣は思う。


 確かに水谷先生はいい人だし、生徒に人気だ。

 だけど――あの人が七不思議の一端を担っている点に関しては…………なんとも言えない。

 結衣が少し失礼な思いを巡らせていると、


「私が、四年生……の時……水谷、先生……が、担任……だったの……」


 真菜が嬉しそうな顔で語り出す。

 その顔がとても綺麗だったから……結衣は不覚にも見とれてしまった。

 それはみんなも同じようで、目を奪われている。


「その時……本当に、色々……気にかけ……て、くれて……それで……」

「あぁ、そう言えば真菜ちゃんって……」

「……うん、私……には……親が、いない……から……」


 ――そう、真菜には親がいない。

 だから多分、水谷先生に良くしてもっていたのだろう。

 あの先生は、困っている人を放っておけないような人だから。


「なるほど……うん、水谷先生って世話焼きだもんね。真菜ちゃんも……いい先生になれるといいね」

「……! うん! 絶対……いい、先生に……なる……!」


 ――うん、きっとなれるだろう。

 結衣はそう確信する。

 真菜も優しい子だから……きっと、いい先生に――


「――で、結衣はどうなの?」

「…………んえ!?」


 感傷に浸りきっていた結衣は、もうこの話は終わりだと思っていた。

 だが、突然かけられた声に、またしても変な声が出てしまう。

 そして、みんなから白い目で見られた。


「えー……あー、うん。そうだね……私は――」


 そこまで言って、一度言葉を切る。

 そして覚悟を決め、口を開く。


「私は、図書館で働きたい! というか、なんでもいいから本に囲まれたい!」


 結衣は、溢れんばかりに目を輝かせる。

 とにかく、本と一緒にいられるような仕事がしたい。

 結衣はもう、そのことしか頭に入っていない。


 そんな結衣の様子を見て、みんなが苦笑する。


「あっはは。結衣は本当に本が好きね〜」

「うふふ。結衣ちゃんらしいです」

「……うん、結衣に……ぴったり……だね……」


 呆れたように、でもそれが当然だというように――笑う。

 みんなの笑顔を見て、結衣も笑顔を浮かべた。

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