第91話 本当に最低だ

「やっほーい! 夏音ちゃん!」

「……誰ですにゃ?」

「いやだな〜、忘れちゃったの? もー、しょうがないやつだなぁ。集団下校の時同じ班の美波だよ〜?」


 美波はあの後、どうやって家に帰ったのかわからない。

 だけど、一つだけ言えることがある。


 美波は壊れた。

 そう、壊れたのだ。

 何が壊れたのかは判らない。だが、確かに壊れた。

 そう認識している。


 そんなことを考えている間にも、美波は夏音の頭を撫でくり回す。


「にゃぁぁ!! もう! 何なんですにゃ!?」


 夏音は我慢の限界だったのか、ふしゃああああと威嚇している。

 そんな所まで可愛いな……と、美波の口元が緩む。


「あはは。ごめんね。ちょっとお話したくて」


「駄目かな?」と美波がそう訊くと、夏音は訝しげな表情を浮かべながらも、


「すぐに終わるならいいですにゃ……」


 渋々了承してくれた。


「よかったー、ありがとう。んで、早速本題なんだけど――」

「“どうやったら苦しまずに済むのか”――ですにゃ?」

「……どうして、それを……?」


 努めて明るく話題を振ったが。

 的確に真意をついてきた夏音に、美波は疑問に喘いだ。


 夏音は人の心が見えるのではないか。

 美波は大真面目にそう思った。

 だが、夏音は不機嫌そうな顔を浮かべる。


「噂で聞いたんですにゃ。ハブられたって。だから……そう言うんだろうなって思っただけですにゃ」


 ……この子は、美波が思っている以上に“人”のことを識っているらしい。

 だったら自分の悩みも、解消してもらえるかもしれない。

 美波はこの時から、夏音を利用しようとしか思えなくなっていた。


「ふーん……そっかぁ……なら――」


 美波がそうやって呟くと、夏音は不思議そうに首を傾げる。

 美波は内心――いや、外面でも笑っていた。


「友達になってよ」


 これで、多分。傷が癒されると思うから……


 ☆ ☆ ☆


 ……随分懐かしい夢を見ていた。

 いかに自分が最悪なやつなのかが判る。


 だけど、他にどうすればいいのかわからなかった。

 それは、今でもわからないけれど。


「はぁ……頭が痛い……」


 あの時から頭痛が止まない。事ある毎にぶり返す。

 まあ、そんなことはどうでもいい。


 とりあえず、ここから移動しないと。

 ここは森の中だから、危険がいっぱいだ。


「……ん? なんだ、これ?」


 移動しようと体を起こすと、チョコレートパフェがちょこんと置いてあった。

 ――このチョコレートパフェは。


「……夏音ちゃん、かな……」


 夏音と仲良くなった時、一緒に食べたものだ。

 毒。そう、甘ったるい毒。


「……あはは。あの魔法少女ちゃんにあげたものかな……」


 美波は笑った。そんなに楽しくはなかったが。


「うん……楽しくはなりそうかな……」


 夏音がどうやって自分の居場所を特定したのか。何故美波の元に置いたのか。

 何一つわからなかったが。


「不快じゃないし……まあ、いっか」


 美波は深く考えないことに、しておいた。

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