第77話 運命が廻り出す

 ――チュドーン!


「あー、もう! また負けたぁ!」

「ふっふっふ。このゲームを熟知しているあたしに敗北の文字はな――」

「はーい。お茶とお菓子持ってきたから自由に食べてね〜」


 せーちゃんたちは、またリビングに来ていた。

 そして、緋依と一緒にテレビゲームをしている。


『Mii』という人気のあるゲームで対戦をしていたのだが、やり込んだゲームだからか、ずっと勝ちっぱなしである。

 そろそろ手を抜こうかと考えたが。


 ――ゲームに関しては手を抜きたくない!


 という自分でもよく分からない意地があった。

 なので、せーちゃんはゲームを切り替えることにする。


「よし、次は『マリコ』で協力プレイしましょ!」

「えー……『マリコ』って対戦の方が面白くないですかぁ?」


 ――こ、こいつ……!

 せーちゃんがせっかく気を使って協力しようと言ったのに。


「ふふふ、いいじゃない。望むところよ!」


 ……そして。


「ああああ! 負けたああああ!?」


 コテンパンに負けた。


『Mii』よりプレイ回数が少ないとはいえ、せーちゃんがゲームで負けるなんて!

 金にものを言わせて買いまくり、暇さえあればやりまくっていたのに。


「緋依さん……『マリコ』やり込んでるの……?」


 そうじゃなきゃ、自分が負けるなんて納得出来ない!

 闘争心や嫉妬心を剥き出しにしているせーちゃんに気付いていないのか、緋依は毅然と言い放つ。


「あはは……私の親がそういうの買ってくれると思います?」


 乾いた笑みを浮かべた緋依に、せーちゃんは声を出せなくなった。

 そうだ。噂や、結衣から聞いたことがある。

 緋依は……


「……っ!」


 胸が、何者かに力強く掴まれたような息苦しさを覚える。

 空気が重くなったのを感じる。


 シーンという音だけが響く静寂の中、緋依がおもむろに口を開いた。


「……ちょうどいいや。少し、お話があります」


 いつもとは違う、真面目な表情を浮かべる緋依。

 せーちゃんは、その緋依の態度の違いに面食らった。


「な、なに?」

「私の親のこと……せーちゃんはある程度知ってますよね?」

「え……ええ、そうだけど……」


 せーちゃんは緋依の真剣な様子に、どういう態度を取ればいいのかわからずに狼狽える。

 だが、それを極力表に出さないよう努める。


「……せーちゃん。ここ最近、何か変わったことありませんでしたか?」

「――はい?」


 突然切り替わった話題についていけず、せーちゃんは間抜けな声を出した。

 顔も少しおかしくなっていたかもしれない。


 だが、緋依さんはこちらを見ることなく続ける。


「私はありました。……親のことで」

「……えっ……と、それは酷くなった……ってこと?」


 あれより酷い仕打ちはあるのだろうか。

 せーちゃんは内心そう思いながら訊いた。

 だが、緋依はふるふると首を横に振る。


「違うんです。逆なんです」

「……ん? え? どういうこと?」


 せーちゃんの間抜けな問いかけに、緋依はやっとせーちゃんに向き直って言った。


「私の両親は……冷たさこそ続くものの、私の部屋を漁って散らかしたり、ご飯と言えないご飯を出したりすることはなくなりました」

「え……? よ、よかったじゃない。いい方に変わっているなら……」


 せーちゃんの言葉が気に食わなかったのか、はたまたトンチンカンな応えに機嫌を損ねたのか。

 緋依は、酷く悲しそうな顔をしている。


「せーちゃん……本当に分かりませんか?」

「な、なにが……?」


 せーちゃんの問いに一拍置いて、緋依は答える。


「私の両親が変わったのは、結衣ちゃんに会ってからです」


 そう言って、緋依は首を傾げた。


「違いますね。正確には、結衣ちゃんが魔法少女になってから……かもですね」

「え、ちょっ……どういうことなの?」


 いい加減頭が混乱してきた。

 せーちゃんはキャパオーバーになり、頭から煙が噴き出している。


 だけど、緋依はまたもせーちゃんの頭を混乱させるようなことを言い放った。


「私の親が変わったのは最近。結衣ちゃんが魔法少女にさせられたのも最近です」


 と言うと、緋依は目を伏せる。


「これが――偶然だと思いますか?」


 そしてまた目を開けると、その瞳には疑惑があった。


 ――ここから運命が大きく廻り出す。

 そのことに、せーちゃんは気付くことができなかった。

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