第71話 悲しみを打ち消す言葉

「で、何がどうなってるの?」

「あ、それは――かくかくしかじか」

「なるほど……それって――」

「大方、せーちゃん様のせいですよねぇ?」


 結衣の言葉を遮り、ガーネットが代わりに結衣の言いたかった続きを紡ぐ。

 そして、せーちゃんとガーネットがそれを火種に口論が始まったので、結衣はそれを無視する。


 夏音の方をチラリと見やると、何やらブツブツ呟きながら俯いている。


「夏音の邪魔をするやつ……許さないですにゃ……」

「それは違う!」


 結衣が強く放った言葉に、夏音は吃驚して顔を上げる。

 その顔には驚愕と、恐怖があった。


 多分、夏音は恐いのだろう。自分が、認められないことが。


「せーちゃんは多分、あなたに伝えたかっただけだと思う。『あなたは独りじゃない』って」

「う、嘘……ですにゃ。そんなの……」

「嘘なんかじゃない! 現にせーちゃんはここにいる! ……そりゃ、言い方はアレだったかもしれないけど……」


 結衣は語尾をごにょごにょと付け加え、「とにかく!」と言うと、


「私たちは夏音ちゃんのそばにいるからさ、ね? 一人で溜め込んじゃダメだよ」


 結衣は夏音の瞳を真っ直ぐ見つめて、言った。


「……ひ」

「「「ひ?」」」


 夏音が肩を震わせながら呟いた言葉を、結衣とガーネットとせーちゃんが反芻する。

 すると――


「ひっ……ひえぇぇぇぇんん!!」

「ええっ!?」


 突然大声で泣き出した。

 その夏音の様子に、結衣はどう接すればいいか分からずに狼狽える。


 しばらく何も出来ずにいると、夏音が嗚咽混じりに言葉を零す。


「ひくっ……今まで、誰にもっ……そんなの言われたことっ……なかった……ですにゃ……ううっ……」


 なんだ、そういう事か。

 結衣はなんか悲しませるようなことを言ってしまったのかと、不安になってしまっていた。

 だけど、もう大丈夫……だと思う。


 そんなに嬉しそうに泣かれたら、自分まで嬉し泣きしてしまいそうだ。

 結衣が感慨に浸っていると。


「おやぁ? 結衣様泣きそうな顔してますよぉ?」


 ガーネットがからかうように言ってきた。

 本来ならお湯に沈めている所なのだが、今日は照れくさそうに笑って誤魔化す。


「まあね。夏音ちゃんが心を開いてくれて良かったよ」


 そう言って、結衣は夏音を優しく抱きしめた。

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