第59話 七不思議その二

「次の、七不思議……その二! 理科室の……人体模型が……喋る!」

「おー、七不思議で定番の理科室かぁ……」


 理科室なら、何かあっても良さそうだなと結衣は思った。

 というのも、図書室や例の女子トイレとそれほど離れていない場所にある理科室は、道具が古いせいか、度々壊れ、使えなくなった道具がたくさんあるのだ。


 そんな理科室なら、怪談の一つや二つあるかもしれない。


 結衣は無自覚に、少し期待していた。


「じゃ……あ、開ける……ね……!」


 真菜がそう言うと、引き戸を開け――ようとしたのだが。


「あ、あ……れ?」

「どうしたの、真菜ちゃん?」


 引き戸はガタガタと音を立てるだけで、開く様子はまったくない。


「これ……多分、鍵……かかって……る……」

「え!?」


 真菜が零した言葉に、結衣は愕然とする。


「う、嘘でしょ……?」


 放課後なら教室に鍵をかけても不思議はない。


 だけど、やっとこれから楽しくなる所だったのに。

 ……あれ? なぜ自分も楽しむ側に回っているのだろうか。


「ん? どうした……の、結衣……? そんな……所に、うずくま……って」

「いや……なんでもないよ……」


 結衣は虚ろな目で立ち上がり、改めて理科室の引き戸を見る。

 その時、どこからか微かに音が聞こえた気がした。


「ねぇ、なんか聞こえない?」


 結衣が辺りを見回しながらそう言うと、真菜にも聞こえたのか、結衣に倣って辺りを見回し始めた。


「なんでしょうね……理科室の方から聞こえるような気がしますけどぉ」


 ガーネットの言葉に、ハッと結衣たちは顔を見合わせる。

 そして引き戸に顔を寄せ、耳をつける。

 すると――


「ふー、誰もいない理科室は最高だね」

「――!」


 微かに独り言が聞こえた。


 これはもしや、本当に人体模型が!?

 興奮した結衣は引き戸に寄りかかりすぎて、ガタンと音を立ててしまう。


「だ、誰だ!?」


 理科室から焦燥の声が聞こえる。

 かく言う結衣も、「しまった!」と、かなり怯えた。


 これは目撃者を殺すパターンか!? そう思うが、足が動かない。

 真菜も焦って理科室を警戒しているようで、顔が険しい。


 そして、ついに鍵が外され、引き戸がゆっくりと開く。

 やばい! そう思った結衣は、咄嗟に目を瞑ってしまう。

 だが、放たれた言葉は思いもよらないものだった。


「お前たち、ここで何してるんだ?」

「……え? その声、まさか――」


 拍子抜けした結衣は、その言葉に一拍置いて反応する。


「水谷先生!?」

「お、おう?」


 それは、結衣がよく見知った人物だった。

 結衣の担任の先生である水谷先生。ちょっと太り気味で、生徒に人気のある優しい先生。


 結衣が叫んだ事に驚いたのか、先生が疑問形で答える。


「……まさか担任の先生がここにいるとは…………」

「ん? 担任の先生が理科室に居ちゃダメなのか?」


 結衣は安心したやら、期待はずれだったやらでため息と共にそう零す。

 ――のだが、先生は何を思ったのか、首を傾げて訊いてきた。


「あー、いえ……そういう事ではないです……」


 結衣はぎこちない笑みで、そう答える。


「でも、先生は……何で……こんな時間に……理科室……に?」


 真菜が小首を傾げて先生に訊く。

 それは結衣も訊きたかったことなので、結衣も真菜に倣って先生を見る。


 当の先生はと言うと、しきりに目を泳がせて、結衣たちと目を合わせないようにしている。


「……先生?」


 結衣と真菜は同じように、半眼で先生を睨みつけるように見た。

 その視線に耐えられなくなったのか、先生は重い口を開く。


「実は――」

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