第20話 水無川家の秘密

「えっ!? あの西園寺財閥の娘さんなの!?」

「どうりで口調がちょ〜っと偉そうな感じだったんですねぇ〜」


 西園寺財閥――病院や不動産などを経営していると言われている。

 皆が一度はテレビで見かけた事がある、結構有名な財閥だ。


「そんなに驚かれても……あたしあの家大っ嫌いだからさ、あんまり人に言いたくなかったのよね……」

「それでもすごいよ! いいな〜お金持ちって」

「結衣様も願えば手に入りますよぉ? 仮染めのものですがぁ」


 悪どい笑みを浮かべていそうだと感じるほど、悪意のこもった言葉が返ってきた。

 ――上げて落とされるとはこのことを言うのだろうか。

 結衣は呑気にそんなことを考えていた。

 そして、少女に向き直って尋ねる。


「で、あなたの願いってなんだったの? えっと……」

「……西園寺星良さいおんじせいら。願いは……一人でも生きていけるような力が欲しい、だったわ」


(――だった?)

 結衣は目の前の少女が発した言葉に若干違和感を覚えながらも、

(ま、まあ、言葉のあやとかだよね)

 と、勝手に納得した。

 そして、次の瞬間にはいい笑顔を浮かべて。


「じゃあ、せーちゃんだ!」


 結衣が目を輝かせながらそう言うと。

 星良――いや、せーちゃんは驚いた様子で目を丸くした。


「せ、せーちゃん……?」

「ぶふっ、可愛らしくていいじゃないですかぁ〜」


 ガーネットが堪らず吹き出すと、せーちゃんは顔を真っ赤に染め上げながらガーネットを追いかけ回した。

 その光景を見て、結衣は微笑ましいなと思って眺めている。


 そんなことを考えながら……ふと脳裏に浮かんだ人物について。

 ずっと疑問に思っていたことを静かに、独り言を呟くように口にした。


「……真菜ちゃんの願いって、本当に私と同じものなのかな……」


 ――何か引っかかる。

 それが何なのかは……よく分からないけれど。

 結衣がそう考えていると、


「真菜……って、水無川の?」


 ガーネットを追っていたせーちゃんが、いつの間にか結衣の後ろにいた。

 結衣は思わずビックリしすぎて叫びだしそうになったが、なんとか耐える。


「そ、そう! せーちゃん、知ってるの?」

「まあ、親が話しているのを偶然聞いちゃった程度なんだけど……」

「そ、それでもいいよ! 真菜ちゃんについて教えて?」


 ずいっとせーちゃんの方に鼻と鼻がくっつくほど近くに顔を持っていくと――

 ガーネットにからかわれた時と同じようにせーちゃんは目を丸くして、頬を赤く染めた。


 そして我に返ると、「近い」と言って結衣から顔を逸らす。

 そんなせーちゃんは、気を取り直すようにゴホンと咳払い一つ。


「結衣……は、知らないだろうけど、昔の水無川家はうちに次ぐ大富豪だったのよ」

「へぇ……知らなかった……」

「そうだったんですねぇ〜」


 いつの間にか結衣の隣にいたガーネットも、平然と話に混ざっている。

 それに気付きつつ、結衣とせーちゃんはスルーを決め込んだ。


「それでね、その水無川家は――その手のものには結構有名な家だったの」

「その手……?」


 結衣が疑問を口にすると、せーちゃんはこくりと頷く。


「幽霊やら悪魔やらについて代々研究していたそうなのよ」

「――は?」


 せーちゃんの説明に、結衣は思わず顔が引きつってしまった。

 せーちゃんは「まあ、無理もないわよね」と続ける。


「一般人にはそれを隠し続けてきたようなんだけど、ある日、それについての噂が流れ始めちゃったみたいなの。それであっという間に家は没落……真菜は祖母の家に引き取られたって話なのよ」


 そして、せーちゃんは言いにくそうに結衣から目を逸らして言う。


「それでも諦めずに研究を続けていた両親は、その実験中に爆発に巻き込まれて……亡くなってしまったらしいわ……」


 ぜ、全然知らなかった……

 結衣は耐えきれず、その場に崩れ落ちた。


 かつてない――ものすごく重いシリアス展開に。

 結衣はもう言葉を発する気力も、話を聞く気力もなかった。

 そんな結衣を気の毒に思ったのか――せーちゃんもガーネットも、それ以上口を開くことはなかった。

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