スタシャ

 スタシャは、10歳くらいの子供の姿をし、白く肩ほどの長さの髪、瞳は澄んだ薄い緑色をしている美少女である。しかし、中身は、100歳を越えた婆さんで、若返りの術が失敗して若返りすぎて少女の姿になってしまったのだ。


 そんな彼女を連れて、村に戻ってきた。僕らを心配していたのか屋敷には、ゴードンが詰めていた。エリスやマグ姉とゴードンに僕らの顔を見せると、安堵の表情を浮かべてくれた。すぐに皆の視線は、見知らぬ少女に集まった。エリスが、なんか僕を睨んでいるが……まさか、僕に少女趣味があると思っているんではないだろうか。ココのときと同じ轍は踏むわけにはいかない。すぐに、スタシャが村に来た経緯を説明した。最初のうちは、子供姿だった為、最初は魔の森に住んでいたこと、錬金術師であることは冗談に思われていたが、なんとか、ミヤの言葉で信頼してもらえた。僕が説明したのに……ショックだ。


 スタシャは、簡単な自己紹介をした後に、すぐにアダマンタイトの確認をしたいと無言の抗議をし始めたので、僕は資材置き部屋に案内した。ここに入るのもしばらくぶりだな。ホコリが少し溜まっていたので、ドアを開けた時、少しむせてしまった。僕は、中に入り、アダマンタイトのインゴットを持って部屋を出た。インゴットを見て、スタシャは驚きの表情と恍惚とした表情が入り混じったなんとも言えない表情をしていた。


 僕が持っているインゴットに、スタシャがすかさず手を伸ばして奪おうとしてきたので、腕を上げて、スタシャの手が届かないようにした。それでも、スタシャはジャンプしたりして取ろうとしていたが無駄だった。子供が、はしゃいでるようでほのぼのと眺めてしまった。


 「スタシャ、落ち着け。これがアダマンタイトか?」


 スタシャは、コクコクと頷いた。アダマンタイトに目が釘付けにされている。


 「約束は覚えているか? これを渡す代わりに村で仕事をしてもらうことになるが、それいいのか?」


 またしても、コクコクと頷く。本当に大丈夫なのかな? せっかく、アダマンタイトがあるんだから、何か術をやってもらいたいな。実際にまだ見たことがないから、錬金術棟がどういうものなのか分からない。


 「それじゃあ、このアダマンタイトを使って、何か術をしてもらえないか? お前の腕を見てみたいのだ」


 スタシャは、僕の提案に面倒そうな顔をしたが、仕方がないといった様子で、その辺の石ころを拾い集めはじめた。その場に、チョークで魔法陣を描き始め、拾った石ころとアダマンタイトは陣の中心に置いた。そこまでの手際は本当に良いもので、淀みがなく、馴れている手つきであることが素人目からもよく分かった。スタシャは、わからない言語で呪文を唱え始めた。何も反応らしいものがないまま、詠唱は終わった。本当に何も変わった様子はなかったけど。


 スタシャは、アダマンタイトを大事そうにカバンしまいこんだ。勝手に何をしているんだと思ったが、今は何も言わないでおこう。それよりも石ころのほうが気になる。スタシャは、しゃがんで石ころを集め、僕に手渡した。変哲もないただの石ころだが? 失敗したのか? しかし、スタシャは、表情を変えずに、資材置き部屋に勝手に入り、鉄くずを持ってきた。それを石ころに近づけると、ぺたりとくっついた。


 僕も何度も鉄くずを石ころに付けたり離したりして気付いた。これは、磁石だ。その辺の石ころが磁石になってしまったのか? 試しに、その辺の石ころに鉄くずを近づけたが、何の反応もなかった。錬金術というのは、すごいものだな。物質の性質をこうも変えてしまうとは。


 「これはすごいな。磁石にしてしまうとは……。アダマンタイトは減っている様子はないが、そのインゴットで永久に使えるということなのか?」


 「アダマンタイトがあれば、こんなの朝飯前だ。高度になればなるほど、消費も早くなるな。この程度の術だったら、いくらも使わない。まぁ、高度な錬金術をやろうと思ったら、こんなインゴット程度の量では足りないな。錬金術を少しは分かってくれたか? 」


 スタシャの実力は本物だ。いい人材がこの村にやってきてくれたな。彼女の実力を確認したので、アダマンタイトを勝手に持っていこうとしていたことは、不問にした。僕らは、居間に戻ると、少し雰囲気が変わっていた。マグ姉が少し挙動がおかしくなっていた。


 「ロッシュ。王家にこういう昔話があるのよ。私より数代前の姫がいたの。その者は、美しく利発で、王家を引っ張っていくと言われるほどだった。しかし、その姫は錬金術にのめり込み始め、人前から姿を消したそうなの。それから、姫がある事件を引き起こし、放逐された。その姫の名は、魔女スタシャと」


 マグ姉は、スタシャの方に目を向けると、観念した様な顔をしてため息をついた。


 「その名も懐かしいな。私は好きではないが。それで? 私が魔女スタシャと知って、どうしたいんだ? 」


 「どうもしないわ。ただ、ロッシュに危害を加えそうになったら、全力にあなたを止めるわ。それでけを覚えていてほしいの」


 「私はロッシュという男に興味はない。君の言う、あの事件だって、向こうから手を出してこなければ、私からどうこうするつもりもなかったのだ。私が興味があるのは錬金術を極めることのみだ。この村にいるのも、アダマンタイトが手に入るからだ。私から、この村に来たいなど一度もないのだぞ。それを忘れるな。ロッシュに聞いておく。それでも、私にこの村に居てほしいと思っているのか?」


 僕は、正直に困惑した。マグ姉やそれを聞いた人は、スタシャを警戒しているだろう。しかし、それを天秤にかけても、彼女の存在は有用だ。彼女にしか出来ないことは山のようにあるし、その一つ一つが村の発展には欠かせないものだ。僕が目指すべき村の将来のためには、彼女が必要だ。僕は、マグ姉の気持ちをわかった上で、スタシャにはこの村に居てもらうことにした。


 僕の決断に対して、マグ姉は異議を唱えることはなかった。ただ、油断だけはしないようにとだけ言っていた。僕のことを心配した上で言っていることなのだろうと思って、感謝の言葉を告げた。マグ姉は、すこし照れたような顔になった。すごくかわいかったな。


 その後、スタシャは村を一旦離れることになった。魔の森の小屋に大量の資料や資材があるので、それを持ってくる必要があるということだ。それに継続中の実験があるから、それが終わってから合流すると言って去っていった。一応、戻ってくるか分からなかったので、アダマンタイトは返してもらった。スタシャは、こういう時だけ子供みたいな仕草をするから、かわいい。それでも、これだけは譲れなかった。


 僕は、スタシャが仕事が出来る場所を作ることを決め、スタシャが住んでいる小屋より少し大きめの建物を用意しておくことをスタシャに告げるといろいろと注文をいい始めた。僕は制止をしたが、スタシャは早く帰って実験の続きをしたいみたいで、注文を書いたメモを僕に渡して、屋敷を後にした。


 スタシャが再び姿を見せたのはそれから三ヶ月先のことだった。

 

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