綿と

 トール夫婦に服飾店を任せてからしばらく経った。ゴードンから吉報が入ってきた。村人全員から聞いた結果、綿の密栽培に加担していた者を見つけることに成功したのだ。その者は、ゴーダが代表をしていた集落にいた男だった。なかなか口を割らなかったが、ついには白状をしてくれた。どうやら、律儀に先代の命令を守っていたようだ。


 その男が屋敷にやってきた。おどおどしていたから、罰を受けるのではないかと心配しているのではないかと思ったから、それはない旨をしっかりと説明した。そうおかげか、だんだんと落ち着きを取り戻していった。


 「村長様。私が、綿のことを黙っていたのは、先代様のご命令があったからで、決して、村長様に悪意があってしたのではありません。それをご理解いただきたいと思っております」


 僕は、もちろんだと男を安心させた。さて、本題だ。


 「綿花の栽培は、私が住んでいた集落の更に北に行ったところに行われておりました。面積は然程大きくはありませんが、毎年収穫は順調に行われていました。先代様は、収穫した綿花は、市場に流さず、倉庫に保管しておくように我々に命令しておりましたから、倉庫にまだ残っていると思われます。畑には、綿花が残っていると思われるので、もしかしたら種などが手に入るやもしれません」


 なるほど。あの集落の北にあるのか。集落の存在すら知らなかったのだ。僕は、すぐに向かうことにした。ライルに自警団を集めてもらい、急行した。男の案内で、森を抜けていく。森にこんな道があったなんて、気付かなかったな。その道は、ずっと続いており、その道が終わると森の中に木の生えていない広大な土地が出現した。その土地は、草に覆われおり、綿花は見当たらなかった。近くに倉庫があると言うので探すと、奥の方に、村で一番大きな倉庫に匹敵する建物が建っていた。厳重に施錠がされており、扉からは容易に入ることが出来なかった。


 僕達は、倉庫の前で入り方を考えていると、自警団の一人が、倉庫の裏の一部が破損して、入れるようになっているのを発見し、僕達は中に入ることが出来た。そこには、綿がうず高く積み上げられており、足の踏み場がないほどだった。僕達は、綿花をかき分けながら、入口付近の方まで近づくと、棚があり、その中には、種がぎっしりと詰まった容器を見つけることが出来た。


 男がその容器を見て、これは、綿花の種ですと教えてくれた。村に綿が手に入った瞬間だった。この綿をすぐに村に運び込む手はずを整え、村人を多数動員して、村の倉庫に綿がうず高く積まれるようになった。


 これで、綿糸を作れればいいと言う段階まで来た。僕は、道具が入っている倉庫に赴き、ある道具の前に行き、布を取ると、新品同様の状態の糸車を見つけることが出来た。前に入った時、物色した時発見していたものだ。 なぜ、このようなものがあるのか分からなかったが、今思えば、父上が綿糸を作るために用意していたものなのだろう。それが、使わず仕舞いでホコリをかぶっていたわけだ。


 しかし、僕は、綿花から綿糸を作る方法を知らないので、村民に試行錯誤をしながら、綿糸を作ってもらうようにした。ゴードンを通じて、綿糸を作る者の募集をかけたところ、ゴーダの奥さんや、集落の女性達が名乗りを上げてくれた。今のところ、彼女らに農業の仕事を任せていなかったので、綿糸の仕事を任せることにした。リーダーはゴーダの奥さんにしようとしたが、彼女は身重だったため、代わりにスノという女性に任せることにした。


 「スノ。綿花は今後重要な産業となるだろう。綿糸にする工程は非常に重要だ。常に研究を怠ることなく、品質を向上していって欲しい。まずは、糸の紡ぎ方を見つけてくれ。よろしく頼むぞ」


 スノは力強く頷き、村長の期待に添えるように頑張りたいですと言ってくれた。


 しばらくしてから、スノから綿糸が作れるようになったと連絡があった。僕と生地職人のメトレーと一緒に、綿糸の試作品を見に行った。メトレーが言うには、すこし糸が太すぎる感はあるが、生地に出来るとのことで、僕は、綿糸製造のスノに量産体制にするように命令した。とりあえず、メトレーには、この試作品の綿糸で生地を作ってもらうことにした。


 試作品の綿糸で作られた綿布が完成した。少し粗いが気もするが、最初の出来としては十分な出来だった。服飾担当のトールも合格点を出していた。僕は、トールにあるものを作ってくれるように依頼した。トールは、ちょっと戸惑っていたが、すぐに了承してくれた。その後、トールと色々と相談をして、解散となった。


 今、この屋敷には、僕とエリス、ミヤ、マグ姉、マリーヌが同居している。彼女らと僕は、一緒に朝食を摂っていると、トールが訪ねてきた。ついに完成したか!! 僕は、トールに応対しているエリスを差し置いて、朝食を食べている部屋に招き入れた。


 僕は、トールに目で合図をすると、トールは察してくれたみたいで、持っていた風呂敷から大量の水着を出した。そう、僕が依頼していたのは、水着なのだ。しかも女性用。どうしても、彼女らに着てほしくて、内緒で作らせたものだ。実は、トールには特殊能力があって、見ただけで女性のサイズが分かるというのだ。それを当てにして、彼女らに黙って作らせたのだ。


 水着は残念ながら、ワンピースタイプとビキニタイプしか作ることが出来なかった。しかも、色が白のみ。この村には染色技術がなかったのだ。それでも、パレオを付けたりして、工夫をしてみた。彼女らの反応は、意外と良好だった。僕からのプレゼントだから嬉しいのか、純粋に水着が欲しかっただけなのか。どちらにしろ、喜んでくれて僕はほっと、胸をなでおろした。


 僕達は、今年初の宿泊施設の泊り客として、海に出かけ、たくさん遊んだ。いろいろハプニングもあったが、盛り上がった海開きだった。


 トールからは、もっと水着のアイデアはないのかといろいろ聞かれたので、僕の知っている知識をすべてトールにぶつけておいた。彼なら、さらなる進化を僕に見せてくれるだろう。

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