麦の収穫
ついに、麦の収穫の時期となった。空は夏の気配を持ち、ゆるやかに暑さが増してきた頃に麦畑は黄金色に輝き、粒はぎっしりと詰まっている。これは想像以上の収穫を見込めそうだな。朝から、村人たちは大張り切りで、収穫の準備を進める。
ここまで、麦を育て上げるまでは苦難の連続だった。麦の発芽をしてからの予想外の長雨、寒風吹き荒れる中の麦踏み、春先の雪、病気の発症などなど、いろいろあった。横で一緒に眺めているゴードンも感慨深いものを感じ取っているようだ。
「ロッシュ村長。この景色、素晴らしいですな。このような一面に広がる麦など、もう見ることなど叶わないと思っておりました。私は、この景色を眺められることを諦めていました。正直、この畑も度重なる天候不順でダメになってしまうのではないかと。しかし、ロッシュ村長が、この麦を守ってくれました」
「何を言う。皆の協力あってこその、この麦ではないか。私も、病気が出たときは悲観もしたが、なんとか麦が持ち直してくれた。麦はこの村にとって、生命線だ。この麦が成功しなければ、僕の今までの評価はすべて無に帰してしまうだろう。そのために、今出来る、万全の態勢で挑んだのだが、なかなか農業というものは思い通りにいかないものだな。ゴードン」
ゴードンは、何も言わなかった。ゴードンもこの麦の出来不出来で今後の僕の村での影響力が変わってしまうことを重々理解していたからである。すこし、重たい雰囲気になったしまったな。
「ところで、村ではどのように収穫をしているのか教えてくれないか? 」
この村では収穫した麦は、
ゴードンの説明を受けた後、村人を集め、収穫開始の号令を出した。
収穫したものは、すぐに稲木に麦を掛けていく。少し収穫しては空いた隙間に稲木を作っていく。一枚の畑に稲木を設置すれば、二枚分の麦を干すことが出来るだろう。今回は、鎌の予備を大量に持って挑んだ。麦って結構堅いから、鎌がすぐに刃こぼれするからだ。僕も、もちろん麦の収穫を先頭に立って収穫をする。
僕は、夢中で鎌で麦を刈り取っては、まとめて地面に置いていく。刈っては、まとめて地面に置いていく。を何度も繰り返していた。農業は、一度始めたらずっと同じことの繰り返しだ。休憩時間に入り、村人は畑から出て一服する。今回もエリスがお茶を村人に配っている。今回から、ココもお茶配りに参加しているが、見ていると心配になるな。でもまぁ、村の爺さん連中は、ココをほのぼのと見ているので、これはこれでいいんだろう。
ゴードンが僕の側にやってきた。
「ロッシュ村長の鎌さばきは、相変わらず、すごいですな。熟練している村人でさえ、一列やるのに時間がかかるのに、同じ時間で二列やってしまわれるとは。いやはや、皆、村長に負けられぬとばかりに気張っておりますぞ。それも、自然に習得したんですか? 」
最近、農作業をしていると毎回のように聞いてくるようになったな。さすがに14歳でこれを習得していたら不自然であることは認めよう。しかし、農作業に入ると、つい夢中になってしまう。こればかりは、
鎌などの農具の製造は、すでに鍛冶工房のカーゴに任せきっている。僕が土魔法で作る鎌より圧倒的に性能がいい。鋼の性能がよく、研磨が素晴らしい。素晴らしすぎて、ちょっとした凶器になっている。これぐらいないと、使い勝手は悪いんだが、子供には持たせられないのがな。この村では、まだまだ子供は戦力なのだ。
早く、子供が仕事ばかりやっているのではなく、教育を受けられるような環境を早く作りたいものだ。マリーヌさんには子供用の本の作成を依頼しているので、それがある程度終わったら、マリーヌさんには教師でもやってもらおうか。冬の農閑期だけなら、なんとかなるだろう。あとで、マリーヌさんに相談してみるか。そういえば、同じ屋根の下にいるっているのに、最近会ってない気がするが……どうしているんだろ? 今夜にでも、覗いてみるか。
余計なことを考えながらも、次々と麦を刈っていく。村人も後半になるに従って、早くなっていく。物覚えの早い村人は、最後の方では僕よりも刈るペースが早くなっていた。非常に頼もしいな。
稲木には、刈っている傍からどんどんと掛けていくのだ。そうすると、大体刈り終わると同時に、掛け終わる。とりあえず、これで、麦の収穫作業は終了だ。
この後の作業は、天日で一ヶ月ほど干せば、脱穀の作業に移ることが出来る。
僕は、刈り取ったばかりの麦を、品種改良の魔法を掛けてみた。
栽培期間 120日
栽培時期 秋
食味 C+
収量 B
品質 C+
残ポイント 5/100
麦はこんな感じだった。他の麦も調べてみたら、概ねこんな感じ。これよりいいやつは見当たらなかったな。さてと、やはり収量を伸ばしたいな。これで伸びれば B+ になるのか……しかし、収量を伸ばすためのポイントが足りなかったみたいで、出来なかった。仕方がないので、品質を B にして、魔法を終わらせた。
麦は、やはり昔から作られているだけあって、ジャガイモと違い、質が高いようだ。ふと思ったけど、この麦って大麦だよね? 僕は、大麦と小麦の区別がどうもよく分かっていない。ゴードンに聞いてみると、ゴードンもよく分かっていないようだ。でも、パンづくりに使われているんだから、大麦なんだよな?
この世界には、小麦はないのかな? 小麦は、ケーキ作りに向いているし、料理にも使い勝手が良い。料理の幅も広がることは、決して悪いことではない。今後、見つかるようなら是非栽培してみたいな。
これで、春の作業は概ね終了となった。後は、畑の管理と麦の脱穀が待っているが、この怒涛の農作業のラッシュから比べれば、一息つけるだろう。僕は、今回作業に加わった全員を集め、労いの言葉を掛けた。
「皆のもの。ご苦労だった。皆のおかげで、米、ジャガイモ、麦の作業を無事終わらせることが出来た。これによって、村の食糧事情は一気に改善されるだろう。野菜も順調に育っていると聞く。これで、我々は餓えから脱したと考えてもいいと思う。しかし、世界はまだ荒れていると聞いている。今後、何があるか分からない。そのためにも、しっかりと備蓄を増やし、いかなる事にも堪えられる準備をしておかなければならない。皆が一丸となり、もっとたくさんの食料を作っていけば、必ず乗り越えられるだろう。そのための協力を頼む」
村人は、一斉に声を上げた。ロッシュ村長!! バンザイ!! 辺りに木霊した。僕は、少ないが酒を皆に振る舞い、小さいながらも宴を開いた。今回は準備が足りなかったせいで、小さな宴になってしまったが、来年からは、この時期に祭りをするのも悪くないと思う。餓えから脱したことを祝う祭り? まぁ、なんでもいいや。祭りが出来るなら。ゴードンもそのつもりなのか、いつになく真剣な思案顔をしていた。ゴードンは、本当に祭りが好きな男だな。
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