ジャガイモと山菜採り

 田植えも終わり、ジャガイモを植える時期が訪れた。去年の冬前に採れたジャガイモおかげで、冬は食料に苦しむことなく過ごすことが出来た。村の子供からは、ジャガイモばかり食べたから、苦情があったみたいだが。嬉しい苦情だと、ゴードンは喜んでいたな。去年の冬に採れたジャガイモは、すべて秋作のジャガイモであるため、冬の間に品種改良を少しずつしていた。


 数カ月前に遡る……


 「ゴードン、今年のジャガイモは、まずまずの成果だったではないか。村人たちには、配り終えたのか? 」


 「ロッシュ村長。私は、ジャガイモに懐疑的だったことに恥じ入るばかりです。ロッシュ村長の英断がなければ、今年の冬はいつものように飢えに苦しむ羽目になっていたでしょう。ジャガイモを配った時、村人たちは感謝しておりましたぞ。配り終え、残ったジャガイモは備蓄として倉庫に保管してあります。それと、ロッシュ村長に言われていた、一部のジャガイモは別に保管してあります。」


 「そうか。僕にとってもジャガイモが手に入ったのは、偶然としか言えない。その偶然がなければ、私は村人に飢えを経験させるところであった。このような偶然に頼っているようでは、僕は皆に感謝を言われるような存在ではない。ゴードン、僕の不足を今後も補ってくれると助かる」


 ゴードンは、もちろんですとも、と力強く頷いてくれた。


 さて、別に保管してくれたジャガイモがある倉庫に行くことにした。もちろん、品種改良をするためだ。別分けされたジャガイモは、肥料を撒いて育てたジャガイモなのだ。まずは、ジャガイモはすべて秋作用となっている為、春作用にしなければならない。僕は、保管されているジャガイモに品種改良の魔法をかけた。品種改良の画面が頭に浮かんだ


栽培期間 70日

栽培時期 秋

食味   C

収量   C

品質   C+

残ポイント 10/100


 その場の有り合わせの肥料だけでは、10ポイントしかつかなかったか。父上が試験的に栽培した時、肥料の効いた畑でしっかりと栽培したんだろう。父上は、農業に関する知識の造詣が深った証拠だ。変えられる項目は、栽培時期のみになってしまうか。まぁ、変えられるだけマシだが……。ただ、10ポイントすらなかったら、栽培時期すら変えられず、秋まで待たなければならない事態になっていたことだけは回避できて、ほっとした。


 春先の定植時も、秋作に変えるジャガイモ分は肥料を入れてあげないといけないんだな。すぐに出来る肥料となると然程もないんだが…・・。


 ちなみに、肥料を入れていない畑で出来たジャガイモは、0ポイントだった。また、冬に出来た野菜も全て、0ポイントとなっており、品種改良の対象にはならなかった。品種改良という魔法も、最高の作物を作ってこそ意味のある魔法といえる。ますます、肥料づくりに力を入れていかなければならないと思った。



 今に戻る……


 春作のジャガイモの作付け面積は、去年の秋と同様の面積となる。200メートル × 100メートルだ。思ったより、春用ジャガイモを確保できなかったからだ。まさか、肥料を入れていない畑の作物は、品種改良のポイントがないとは思わなかった。そうそう、都合良くはいかないみたいだな。


 ジャガイモの畑には、全面的に木炭と海藻を洗浄し、乾燥させたもの、貝殻を粉砕したもの等、海由来のものを中心に肥料にして、散布した。この辺りも、大量生産の目処を立てたいが、マンパワーの不足がどうしても大きな問題となってくる。


 ジャガイモの植え付けは、田植え同様、予定より早く終わらせることが出来た。畝を作り、ジャガイモを深めに植えるだけだ。去年の冬と違い、ジャガイモの美味しさを知ってしまった村人たちが、植え付けに情熱を燃やしてくれたおかげだな。その後の管理は、楽なものだ。ジャガイモの畝の間の草取りくらいだ。出てきた芽の数を少なくする芽かきという作業をする人もいるが……まぁ、不要だろう。小さめのものが多く採れたほうが、保管場所が少なく済む。


 こうして、ジャガイモの植え付けは終わった。田植えと連続で畑仕事をしたため、村人に疲れが出始めている頃だろう。それに、すぐに麦の収穫が始まるので、村人にはしばし休息を与えることにした。


 僕も一旦畑仕事から離れることにした。麦の収穫までは、まだ少し間が空きそうだ。今年の麦は、なかなか良い出来で、色も黄金色に輝き始めていた。あとは、麦が熟するのを待つだけだ。村人たちも今か今かと待っていることだろう。


 すると、マグ姉から森に薬草の採取をしたいので村人を貸してくれと頼まれた。僕も、森に行きたいと思っていたのだ。この辺りは、豪雪地帯で森の春がようやく訪れた頃だろうから、そろそろ山菜が芽吹いてくる頃だろう。マーガレットと村人の薬草採取隊と僕とエリスの山菜採り隊で、森に入ることにした。


 森は、雪解け水が辺りを濡らし、足が少し潜ってしまうくらい、ぬかるんでいた。その中を、薬草と山菜採取隊は奥へ奥へと入っていく。森を抜けると、緩やかな丘が見えてきた。そこには、山菜がたくさん芽吹いていた。春を感じる瞬間だな。薬草採取隊とは、ここで別れることになった。マグ姉がほしい薬草は、もう少し標高の高いところにあるらしい。最近、マグ姉は薬草の研究に余念がないようで、部屋から出てこないこともしばしばあり、エリスに食事を部屋まで頼むことも増えてきた。


 マグ姉は、これから薬師として独り立ちをするのだから、勉強に集中しているのだと思い、エリスにはマグ姉の好きなようにやらせておくようにお願いしておいた。


 エリスは、山菜に詳しく次々と山菜をとっていく。僕も日本にいた頃は、春に芽吹いた山菜を採っていたがエリスほど詳しくはなかった。


 「エリス。びっくりしたぞ。そこまで、山菜に詳しいなんて。どこかで習ったのか? 」


 エリスは少し考えてから……


 「長く食料のない時期を経験したので、自然と覚えてしまいました。多分ですけど、村で山菜に詳しくない人はいないと思いますよ。それほどまでに、食料の無い時期は悲惨でしたから」


 エリスは、悲しそうな顔をしていた。


 「でも、ロッシュ様のおかげで、冬は餓えを感じずに生活することが出来ました。本当に幸せなことでした。以前まで、食べられることが当たり前だったのに、それがどんな恵まれていたことなのか、分かっていませんでした。村の皆もすごく感謝していますよ」


 僕を褒めるエリスはどこか自信に満ちた、そんな表情をしている。


 「僕は、村長として仕事をしているに過ぎないが……褒められれば嬉しいな。どれ、エリスに山菜採りを教えてもらおうかな。僕の知らない山菜がたくさんあるようだ」


 エリスに山菜のことを教えてもらったおかげで、その晩の食卓は、色とりどりの山菜が並び、舌鼓を打つことが出来た。

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