ジャガイモ
塩田を作ったことで、安定的に塩の供給が可能となった。あの塩田だけで、多少の備蓄もできそうだな。塩は完全に盲点だった……。
ゴードンに頼んであったジャガイモの収穫が終わったとの報告があり、たくさんの種芋を手に入れることが出来た。これを魔法で品種改良していけば、冬には十分な量のジャガイモを収穫することが出来るだろう。
秋作のジャガイモは、植える期間がとにかく短い。計画的に動かなくてはならない。ジャガイモは、肥沃ではない土地でも栽培することが出来る優れた野菜だ。村では、肥料と呼べるものが、いくらもないため、こういった野菜が重宝される。
計画として、ジャガイモの品種改良を少しずつ進めつつ、ジャガイモを植える畑を用意する。今回は、新規に作る畑を利用するつもりだ。ジャガイモはとにかく病気が出やすいため、とりあえず、耕作されていない畑が望ましい。新しい土には、有機物として、麦わらを入れてみよう。本当は、動物のフンが望ましいが、今は動物がいない。
人間の排泄物という選択肢があるが……やはり、今は無理だろう。動物の排泄物を肥料として使う場合は、堆肥化という工程が必要となるが、これがなかなか簡単には出来ない。これも将来的には導入したいが……。
ジャガイモの畑は、水田地帯近くの高台にすることにした。あの一帯は、完全に新規の土地だから、ジャガイモには最適だ。ジャガイモの種芋となるイモの数を計算すると……大体、200メートル×100メートル位になると思う。少し、多めに面積を確保しつつ、畑を作る。
透水性を重視して、畑作りをしていく。ゴロゴロした土も、握ってちょうど団子が出来るくらいに、砕いておく。こうすることで、作物にとって快適な空間が完成する。
これで、種芋を植えるだけだな……ここまで、なんだかんだで、1ヶ月近くかかってしまった。畑はすぐに出来たけど、品種改良が結構手間だったな。品種改良をやっていて、面白いことが分かった。割り振ることが出来るポイントが種ごとに違ったことだ。最初に品種改良した種芋は、15ポイントだった。それ以外は、概ね10ポイント〜20ポイントで推移していた。中には30ポイントのものがあった。
おそらくだが、種の生育環境の良し悪しでポイントが決まるのではないか……だから、このジャガイモで実験をしたくて……海で、海藻、貝殻、魚の骨などを集め、乾燥させ、粉末にしたものを一部の畑に撒いておいた。これで、どういう影響が出来るか楽しみだ。
さて、種まきだぁ……を、する前に、ジャガイモ試食会をすることにした。なぜかって? ゴードンがこう言うんだ。
「ロッシュ村長。村人は、ジャガイモには毒があると信じ切っております。そのため、ジャガイモを栽培することに不安が広がっています。なんとか、不安を払拭してもらえないでしょうか? 不安がなければ、皆、喜んで、ジャガイモの栽培を手伝うでしょう」
ジャガイモに毒は……あるんだよね。調理方法に誤りがあっただけで……まぁ、ゴードンの言い分は最もだな。試食用として、少なくない量だが……仕方がない、供出するか。せっかくだから、美味しい食べ方をしてみよう。エリスに、その調理法を教え、数人の女性たちと調理してもらった。塩と油があれば出来るジャガイモ料理……フライドポテトだ。
皆、恐る恐るだが、僕が真っ先に食べたのを見て、奪い合いが始まった。みんなが満足できるだけの量を用意できなくて……ごめんね。
試食会は、絶大な効果だった。翌日から始まった、ジャガイモの種まきは、村人総出で行うほどの騒ぎとなった。
予定よりずいぶん早く終わらせることが出来た。
「ロッシュ様、これであのフライドポテトをたくさん食べることが出来るんですね。私、あの食べ物、すごく好きです! 他にもジャガイモ料理って何かあるんですか? あるのなら、是非、教えてください! 」
おお⁉ エリスが、ここまでグイグイ来るのは、初めて見るな。料理が上手いエリスはこうやって、知識を蓄えていっているんだな。僕も、エリスの作ったジャガイモ料理を食べてみたい。
「ジャガイモが収穫できたら、いろいろ料理してみよう。エリスの料理がますます楽しみになるな」
ジャガイモの植え付けが一段落付いたので、他の秋野菜の種も品種改良をして、新規に作った畑に、どんどん撒いていった。
忘れてたことがある。皆を一同に集めるように、ゴードンに指示を出した。ゴードンの仕事は早い。次の日には、段取りを済ませ、集合することになった。
「暑い中、申し訳ない。今日、集まってもらったのは、皆が所有している畑のことだ。皆の畑を一旦、村の所有にさせてもらいたい。今は食料事情が逼迫している。そのためには、皆が一丸となって、ことに当たる必要がある。そのため、村の畑を、皆が総出で管理をしてもらいたい。収量を皆で分配するという形にしようと思う。
これは、食料が安定するまでの暫定的なものだ。また、相談するが、すくなくとも、皆の所有する畑は、場所は変わるが保証させてもらう。そのための検分を受け入れて欲しい」
村民たちからは不満の声が上がることはなかった。どうやら、ゴードンが事前に皆を説得していてくれたみたいだ。自分の土地が一時でもなくなるのだ……この不安を、よく説得できたものだ。
この信頼を裏切らないためにも、皆を餓えさせない村を作ることを固く誓うのだった。
あとから、エリスから聞いた話だが、最初は村民は、自分の土地を手放すことには難色を示していたそうだが、村で一番の地主であるゴードンが、率先して、村に所有権を手放したのを見て、皆が従ったらしい。
ゴードンに報いるために、僕は何が出来るだろうか?
「ロッシュ様は、何もしなくてもいいと思います。だって、村人に希望を与えてくれたんですもの……これ以上の報いはないと思いますよ」
僕は、何も言えなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます